終われない嫌悪
「へぇ~ほんとに効いたの?」
意外そうな声色ではあったが、相変わらず興味はなさそうな言い方だった。
わざわざ報告に来た鳳凰はこの時点で後悔する。
白沢はそのまま机に向き直り何やら作業を再開した。
白沢の作った「薬」により、最鬼による被害を最小限で済ませることが出来た。
その点については、やはり礼を述べるべきだろう。
鳳凰はそう考え、本当は心底回避したいのだがこうして白沢の許を訪れた。
しかしその結果がこの様だ。
まるで相手にしようとしない白沢の態度に、何故礼を述べようなどと思い立ったのか、鳳凰は数時間前の己に詰問した。
「そっかー効いたかー。だったらちょっとは残しとくんだったな」
一旦頭を上げ、白沢はそう呟く。
恐らく独り言だろう、もはや鳳凰の存在など意識にはない。
そんな白沢の態度には、鳳凰もすっかり慣れている。
鳳凰が気に留めたのは、もう同じ物が本人の手元にない事実だった。
あれだけなのか、と鳳凰が訊ねる。
何やら不気味な色をした鉱物を電灯にかざして眺めながら、あー、と白沢は呼応した。
「まぁねぇ。使い物になるとは思ってなかったし、利用出来た最鬼の細胞もごく僅かだったからねぇ」
再現は出来ないかも、と呑気な声。
しかし鳳凰は「使い物になるとは」の部分に食い下がる。
「……そんな曖昧な物だったのか?」
白沢の話を聞きながら、華倉がしてきたことを思い出す。
その言葉は最鬼を倒すことなど出来ず、本当に殺されてしまっていた現実があったことを、より強いものにした。
うっすら悪寒を覚え、表情を険しくさせる鳳凰など気にも留めず、おうよ、と白沢は言う。
「だからあんたに真鬼か創鬼で試して来てーって渡したんじゃない」
今更、と白沢はようやくこちらを向いた。
椅子の背凭れに上体を預け、こちらを嘲る視線を寄越す。
本当にいけ好かない奴だ。
もうこれ以上の会話は不毛だと判断し、鳳凰はその場から切り上げることにした。
特に何も告げず、そのまま踵を返す。
しかしそこを狙ったかのように、白沢が訊いた。
「何で他の鬼でも試して来なかったのよ?」
足を止める。
そしてゆっくりと、声のした方へ視線を移した。
白沢は笑っている。
いつものように、乾いた笑みだ。
本当なら、一発殴りたいところであった。
しかしもうこの距離を戻るのも面倒だった鳳凰は、頭を抱えて溜め息を吐く。
本当に、と擦り切れたような、喉の奥で潰しながら押し出した声を発する。
「お前は本当に、最低なことしか考えていないのだな……」
ふたりを取り巻く空気に凍てつくような亀裂が生じる。
しかし白沢は肩をすくめ、あんたの知ったことか、とだけ返した。
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