収拾


 ベンチに伏せっている裕の呼吸を確認した後、真鬼は裕の胸部に掌を宛てる。
 そして、軽く押す程度の動作で、気付きつけを施した。

「――っ……」

 驚いたような表情で、裕の目が開かれる。
 自分を見付けて不思議そうにする裕に、真鬼は「気分はどうだ?」と訊ねた。

 裕は短いながらも返事をしようと口を開いたのだが、声が上手く出て来なかった。
 違和感を覚えはしたが、取り敢えずその場は、縦に首を傾けて「問題ない」との意思を返した。

 真鬼はそれを見て、安堵したように呼応した。

「最鬼は華倉が何とかしてくれたんだが……」

 そこまで呟いて、真鬼は顔を上げる。
 視線を背後に見える、反対側の店舗の方へと向けた。

 裕も同じ方を見ると、見慣れない車が停められているのと、その奥にある店舗の中で動く人影が何とか確認出来た。



「また凄いことになってますね」

 ひゃー、と変わり果てた最鬼の姿を前に、隼人は臆することなく感想を述べた。

 隼人が此処へ着いたのは数分前のことだ。
 どうやらすぐ駆け付けたかったらしいのだが、真鬼の張った結界に遮られ、侵入出来ずに手をこまねいたらしい。

 来てくれただけでも有り難い、と華倉は答えたのだが、隼人は少し残念そうにしていた。

 そう言えば隼人は一度、最鬼と交戦している。
 怖くないんだな、と興味深そうに最鬼を観察し続ける隼人を横目に華倉は感心していた。

「でも、何でこれこんなことに?」

 先輩何したんですか、と隼人が訊いてくる。

 華倉としても、自分が何をしたのか、までは答えられるが、何が作用してこうなったのか、は曖昧なままである。
 ただ、鳳凰が説明もなく渡してくれた、何らかの液体のお陰としか。

 さく、と背後で物音が聞こえて、華倉は顔を上げる。
 真鬼が戻って来ていた。

 真鬼は華倉の横を通り過ぎると、最鬼腰辺りでしゃがみこむ。
 小さく山になっているような、出っ張りに手を伸ばした。

「瓶だな」
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