幕切れ
遥か昔、人と「人ならざる者」たちの住処は曖昧だった。
人ならざる者たちは人の命を脅かす不思議な力を有していた。
何か些細な衝突が起きただけで、人ならざる者たちは、人を簡単に殺してしまう。
人々は自らの非力を恨みながらも、何とか被害を最小限にしておきたいと思う保身から、いつからか「生け贄」を差し出すようになった。
初めのうちは差し出す人間はこちらが決めていた。
しかしその内、人ならざる者たちから要求が出て来るようになった。
選ばれるのはいつも若い娘だった。
生け贄に選ばれた娘は、誰一人として文句も泣き言も言わず、これで皆が助かるならと潔く人ならざる者たちの許へ向かった。
勿論帰ってきた者はいなかった。
しかし――
そんな風習が慣習になって暫く、不可解な出来事が人々を襲うようになる。
どうやら人ならざる者の仕業ではない事件が多発するようになった。
注意深く見ていると、それは生け贄にされた娘の親しかった者たちの周囲で頻発していた。
誰からともなく噂が立った、「これは祟りなのでは」と。
しかし今更、人ならざる者たちへの生け贄を止めるわけにはいかなかった。
人々の住処は人ならざる者たちの支配下にあった。
そんな中、人々に更なる不幸が重なる。
その年五つになろうという女童(めわらわ)がいた。
その集落で神に仕える人間を見た時、女童は言った。
『貴方が今も生きているのは、私の犠牲故でしょうか?』
神に仕える人間はすぐに理解した。
以前生け贄になった娘の魂が、転生したのだと。
そんな娘がその後にも何人も生まれるようになった。
生け贄にされた娘の魂は、成仏しなくなったのだ。
人々は悩んだ。
悩んで話し合った末、その娘を隔離することにした。
数人の世話人を付け、娘を集落から追放した。
世話を任された者は酷く嘆いた。
けれど娘を殺すことなど恐ろしくて出来なかった。
ただ夜な夜な、眠る娘の顔に向かって恨み言を零した。
娘には聞こえていなかったはずだ、だが、無意識のどこかに、その恨み言が残っていったのだろう。
いつしか娘も自分の生い立ちを嘆き、人ならざる者を、過去生け贄とされた娘たちを、自分を捨てた集落の人間を、そして父母をも恨み、嘆き悲しんで、哀れむ。