決着まで
繰り出した拳が先に相手へ届いたのは最鬼だった。
真鬼は頬に打撃を受けた所為で、自分の拳を最鬼に当てることが出来なかった。
一旦はよろめいた自分の上体を、真鬼は腹筋だけで戻す。
最鬼の次の一手が既に迫っていた。
先ほど真鬼の頬を殴った右手を、今度はそのまま裏拳として放とうと構えている。
全身丸ごとこちらに突っ込んで来ようとする最鬼から、真鬼は一旦後方へ退却する。
真鬼の背後には自販機が建っていた。
宙へ跳んだ真鬼を追って、最鬼も地を蹴って飛び上がる。
真鬼は足元を見ずに自販機を蹴り、方向転換を図った。
更に上空へ跳んだ真鬼の姿を、最鬼は視線で追う。
そこへ、真鬼が急降下を試みる。
手指の総ての爪をナイフ程度にまで伸ばし、両手を頭上で組み合わす。
その手を振り下ろしながら、最鬼の脳天を目掛けた。
にっ、と最鬼が笑うのが分かった。
避けようとしない最鬼。
それどころか、左手だけをこちらに向けて突き出している。
片手で受けようというのか。
舐めた真似を、と、真鬼は心の中で悪態をついた。
しかしその最鬼の態度で、躊躇いは消えた。
真鬼は腕に力を込め、自身の落下速度を上げる。
最鬼の左手に当たるか否かの直前で、組んでいた両手をほどいてみせた。
爪を最鬼の皮膚に立てるように、その両手で最鬼の身体に掴み掛かる。
鱗のように硬いはずの最鬼の皮膚が、いとも簡単に引き裂かれていく。
さすがの最鬼の口からも呻き声が洩れた。
真鬼のその手を振り払おうと、腰から上体を捻り、左腕を大きく振るう最鬼。
しかし真鬼も離されまいと、逆に指先に力を込め直した。
ブヂン、と何か鈍い破裂音が微かに聞こえた。
途端、最鬼の小指がだらしなく脱力したのが分かった。
腱のひとつが千切れでもしたようだ。
真鬼は地面との距離を確認する。
最鬼の左腕ごと、首を絞めるよう手を押し込む。
そのままの勢いで、アスファルトへ激突した。
二つの巨体からの衝撃で、亀裂は左右の建屋にまで及んだ。
気管から絞り出すような高い呼吸音。