強迫
物陰に隠れるように設置されていた手頃なベンチを見付けたその時、地震かと思えるような地響きが起こった。
華倉は一旦足を止め、思わず振り向く。
自分たちが今までいた場所――今、真鬼が最鬼と戦っているであろう方向からだ。
地響きと、空気圧とが放射線状に広まって行く。
それは火薬による爆発のようにも思えた。
華倉の頬に当たる風にも砂利が混ざっており、それとは異なる電流のような痛みすら覚える。
裕を支えたまま、華倉はベンチに向かう。
幸い裕はまだ自力で歩けた。
しかし今にも意識を失ってしまいそうな、そんな表情なのが見て取れる。
ベンチに裕を下ろすと、華倉は裕の顔を覗き込むように、足元にしゃがみこんだ。
「ごめん、結局巻き込んだ」
謝っても逆効果かも知れないと一抹の不安を抱きながらも、華倉は裕の目をじっと捉えて告げる。
裕は先ほどからずっと胸の辺りを掴んで、呼吸は乱れたままだ。
けれど、ほんの小さく笑うと、ううん、と返す。
「戦おうと決めたのは俺の意思だから」
逃げることも勿論出来た。
でも、自分が逃げたら、きっと数え切れないほどの犠牲が出ただろう。
裕はそう、途切れ途切れに言葉を紡ぎ、華倉に伝えた。
その頼もしさが、良心を刺してくる。
でも結果こちらが助かったのも事実だった。
華倉は裕の左手を掴むと、ぎゅ、と両手で強く握った。
驚いている裕に、真面目な顔で、真っ直ぐに言う。
「……有り難う。戦ってくれて」
華倉からの謝辞に、裕ははにかみながら頷いた。
それが限界だったようだ。
「坂下っ!?」
ぐら、と上半身が大きく揺れた裕を支えようと、華倉が慌てて立ち上がる。
けれど裕は自分の手で何とか自分を支え、ごめん、と顔を俯かせたまま呟く。
「……ちょっ、と、寝る……」
そう言い切らない内に、ベンチに伏せるように裕は倒れ込んだ。
華倉は不安を覚えながら、裕の口許に掌を近付ける。
息はしていた。
本当に寝たってことか、とまずは安堵も覚え、華倉は着ていたジャケットを脱ぐ。