不手際の余波


「菱兄ィが起きないって本当なのか」

 実家から入ったその連絡を魅耶の口からも聞いていたが、華倉は急いで駆け付けた真鬼自身の口からも話を聞き、再度繰り返した。
 真鬼も動揺しているらしい、視線が落ち着かず此処に来てから様子が可笑しい。

 どういうことなんだ、と華倉も思考をフル回転させる。

 目覚めない兄、腕の中で小さく震えたままの幼子。
 相変わらず呼び掛けても全く反応を見せない紀久をしっかりと抱き締め、華倉は真鬼に訊ねる。

「菱兄ィ、元々そんな寝ない人だけど……何かここ数日、変わったこととかあった?」

 紀久のことも、紀久が言ったことも気になるのだが、華倉はまず菱人の様子を把握したいと思った。

 連絡をしてきた容子では、電話越しとは言え子細の説明は望めず。
 今真鬼さんがそっちに向かったから、と教えてもらい、こうして出迎えた次第だった。

 けれど、その真鬼もまともに話をしてくれそうには見えなかった。
 何か、相当に悪いことが起きているのではないか、それくらいは華倉にも判断出来た。

 あの真鬼が、ここまで狼狽えているのだ。

 真鬼はまだ口を開こうとしない。
 その様子を後ろから見ていた魅耶が、とうとう切り出す。

「……そのまま黙っていても、これ以上状況が悪化しないことでしたら、それでも構いませんよ」

 遠回しな言い方だった。
 けれど、そうではない、だからこうして駆け付けたのだ。

 魅耶の声を聞き、真鬼は一度項垂れる。
 そうだな、と小さく洩らすと、ようやく冷静さを取り戻した。

「……最鬼が逃げた」

 考えうる最悪の状況に、華倉は息を呑む。
 けれど、心のどこかで、何と無く予想していた結果でもあった。

 そう、と少し動揺を見せる華倉とは反対に、魅耶は落ち着いたままである。
 真鬼は一拍置いて、私の推測だが、と続ける。

「逃げ出した精神なかみ肉体そとみを見付け、再統合するまでにそう時間は残されていないだろう。そしてそんな最鬼がまず見付けるとしたら……その相手は創鬼だ」
「……坂下が?!」

 真鬼は頷き、血相を変える華倉に続けて話す。
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