計画の真意
洗い物が片付き居間に戻った魅耶が、怪訝そうに目を細める。
静かだな、と思ってはいたのだが。
「どうしました?」
畳に俯せになって動かない華倉の背中に、そんな魅耶の声が降って来る。
華倉はすぐには答えず、うん、とまず小さく呼応した。
それから魅耶が傍に座った気配を確認してから、華倉は続ける。
「……意外と畳が気持ちよくて……動きたくなくなった」
「……疲れてるのなら早めに寝てください」
自分でも予想外ではあった。
夕食後、ちょっと横になろうと思い付いて実際なってみたら、急激に怠さを覚えた。
自覚がないだけで、恐らく疲労が溜まっているのだろう。
華倉がそう考えたように、魅耶も似たような見解らしい。
「ただでさえ普段もそんなに暇なわけではありませんし。そこへ最近は鍛練も加わって」
心配そうな魅耶の気遣いに、その分寝てるつもりなんだけどなぁと華倉はぼやく。
実際鍛練にも慣れて来て、始めた頃よりはだいぶラクにこなせている。
正直なところ、魅耶の言う通り、すぐにでも布団に入りたい気持ちがあるのも事実だが。
しかし、華倉には話しておきたいことがあった。
魅耶、と先に魅耶を呼ぶ。
魅耶の返事が聞こえたので、華倉は起き上がることにした。
「横になっていて構いませんよ」
魅耶のそんな気遣いに、華倉は首を横に振る。
「真面目な話なんだ、さすがに寝たままでは」
座り直しながら華倉は言い切る。
え、と魅耶がやや驚いた様子で反応した。
鍛錬を続けていくうちに、ひとつ思い当たったことがある。
華倉が援助を受けている鳳凰の力で創られた「疑似空間」。
本来存在しないはずの「隙間」を創り、そこへ華倉の「精神(なかみ)」だけ飛ばしている、らしい。
鳳凰はきちんと説明をしてくれたが、華倉は鳳凰の言葉の全てを理解するには至っていない。
本当に凄い力を持っているんだなぁ、などと、それくらいに捉えていた。
『でも何でわざわざそんなことを?』
華倉はそれも訊ねてあった。
鳳凰のことだ、周囲への影響を慮ってのことなら、結界を張るでもよさそうなものを。
けれどそんな華倉の想像を、鳳凰の考えは軽く上回っていた。
『……奥の手だからだ』