確実に曖昧に
話を知った日から、ほぼ毎日のように訪れている鳳凰ですら、鍾海には何の変化も感じられなかった。
本当に何の動きも見せず、ただ静かに、地に突き立てられたまま佇んでいた。
再契約し、所有の許可はしたものの、扱うには力不足。
今の鍾海が、憂巫女華倉に下した判断。
それを乗り越えるため、鳳凰は華倉から援助を頼まれた。
鍾海を扱えるまでに力を付け直すこと、そして戦いの勘を取り戻すための手合わせ。
正直なところ、鳳凰にはそれが可能なのかどうか、全く予想を付けることが出来なかった。
華倉は確かに努力している。
それは手を貸している鳳凰自身も分かるほどだった。
けれど、そんな華倉のひたむきさとは裏腹に、この鍾海の様子からは何も感じ取れない。
無視しているだとか、こちらの霊力の衰えだとか、そういう原因が万一噛んでいたとしても、それ以上にこの刀は「静かすぎた」のだ。
完全に沈黙を保っている。
眠りに就いているのか、そうでないのなら気が変わったのか。
再契約時に見せた、あの力の解放。
あの瞬間だけ切り取って見るならば、確かに鍾海には、華倉に対する関心が顕在していた。
けれど、今のこの静けさから考え直すに、もしかしたら関心があるのは、華倉に対してではなく「憂巫女」に対してなのかも知れない。
暫く、鍾海の傍らに佇み、鳳凰は止めどなく思考を巡らせていた。
最鬼を伐つ。
本音を言えば、まだそんな話をしていたのか、と思ったものだ。
けれど今回、どうやら本当に「終わらせる」つもりらしい。
鳳凰は一度目を伏せ、溜め息を零す。
それから、静かに懐に手を入れた。
掌に収まる小瓶。
白沢の言葉が脳裏を掠める。
『鬼の骨と筋繊維を溶かす薬よ』
今でも、何故白沢は鳳凰にこんなものを渡し、わざわざ用途まで教えたのか。
そして、何故返せと言わなかったのか。
鳳凰には分からないままだった。