対処策
「じゃあ何か、今のままでは憂巫女の力が負ける可能性もあるというのか?」
よもや、と言わんばかりの目付きで華倉を見返しながら、真鬼ははっきりした口調で訊き返した。
華倉は気持ち身体を小さく縮こませながら、左様です、と短く答えた。
暫し沈黙の後、真鬼が盛大に溜め息を零した。
「真鬼もそんな大きな溜め息吐くんですねぇ」
隣で話を聞いていた魅耶が、意外そうに感想を呟く。
それに対し、真鬼は顔面を手で覆ったまま「好きで吐いているわけではない」と断言した。
勿論、この話題で落胆するような知らせは聞きたくない。
ましてや、そんな残念な知らせを自分からすることになるだなんて、不本意にも程がある。
華倉はそう、自分の立場を再確認して、同じように小さくだが溜め息を吐く。
憂巫女としての力が弱まっていた。
卑刀「鍾海」と再契約したあの日、発覚した不都合な事実。
全く予想すらしていなかったことに直面し、正直なところ華倉は途方に暮れていた。
このままでは鍾海が使いこなせないのみならず、3体の鬼神の力と渡り合えない可能性すら出て来たのだ。
これでは憂巫女の呪いを解く以前に、菱人の目論見である「鬼神の消滅」すら叶わない。
非常にまずい状態だった。
「……そうか、今考えればそうだな……。何故力の衰えを計算に入れなかったのか……」
あー、と真鬼が何かを考え直したらしい、独り言のように呟く。
真鬼のその呟きを聞くと、確かにそれは言えていた。
日々生活をしていると、この時間が永遠に続くような感覚に囚われる。
人間としての衰え――少しずつ老いているなどとは、夢にも思っていないわけだ。
それは見えていないだけで、確実に「手元に在る」。
だからこんなふうに、ある日突然、最悪のタイミングで姿を見せる。
「それで、鍾海は?」
柱に凭れ掛かりながら、真鬼が訊ねる。
それについては、魅耶が外を指差した。
「あれっきりです」
魅耶が指を差した方向に、真鬼が顔を向ける。
見えたのは、庭の中央に突き刺さったまま、大人しくそこにいる鍾海の姿だった。
「抜けなくなった……」
ローテーブルに突っ伏して、華倉が頭を抱えた。