再契約
もう二度と、これを使うことなどありませんように。
最鬼の精神を回収し終えたとき、華倉と魅耶はそう願いながら刀を丁寧に白布に包むと、祭壇の奥に静かに納めた。
しかしあれから一〇年と経たずに、その封を解く羽目になった。
奇しくも相手は、あの時と同じ、最鬼だ。
華倉は静かに祭神への挨拶を終えると、中腰の姿勢で祭壇の裏へ回る。
南京錠の掛けられた木箱を取り出すと、開錠した。
音も立てずに蓋を持ち上げると、中には白布に包まれた刀が、あの時納めたまま横たわっている。
掴み、箱から取り出し、白布を取る。
そこには見慣れた、鈍く輝く日本刀が現れた。
「……華倉さん」
華倉からやや離れた、後ろの方に控えていた魅耶が、静かに声を掛けた。
華倉はその声に一度目を閉じると、立ち上がって魅耶に歩み寄る。
しゃがみながら魅耶の足元にその日本刀を置き、魅耶と視線を合わせた。
「幸い、『鍾海』は傷んでない。これならすぐ以前のように使えると思う」
「……そうですか」
華倉の話を聞き、魅耶は気まずそうに視線を落とした。
無理もない、と華倉は察する。
以前、魅耶はこの鍾海を用いて最鬼と闘い、その時に大怪我を負った。
その行為の総てが華倉の知らぬところで起きていた。
勝手に戦いに出て、大怪我を負い、勝手に死ぬところだったのだ。
華倉が本気で魅耶に対して怒ったのは、恐らくその時が初めてで、今のところは最後だ。
魅耶もそのことを思い出しているのだろう、全然目を合わせようとしなくなった。
そんな魅耶を見て、華倉は小さく笑う。
「魅耶、落ち着いて。今回は俺が言い出したんだから」
そっと魅耶の両頬に手を添えて、華倉は自分の方へ魅耶の顔を向けさせる。
きゅ、と唇を軽く噛み、何かに耐えている魅耶の顔が見えた。
約束と言えば約束だった。
もう鍾海を使うことのないような生活をしていこう、と。