近付く正体
「夜分遅くに申し訳ないです」
玄関先で出迎えてくれた隼人に、魅耶が深く頭を下げた。
いいえ、と戸惑いながらも突然の訪問を受け入れる隼人が、隣にいる華倉の顔を見る。
瀧崎家にアポなしで来てしまったはいいものの、運良く主人である隼人が対応してくれた。
こちらこそ寝巻きで済みません、と隼人が浴衣姿で会釈をした。
こうして隼人に会うのは、最鬼を榎本唯一から分離させた一件以来だ。
「で、どうしたんですかまた?」
上がってください、と隼人は迎え入れてくれるものの、魅耶は靴を脱ごうとしない。
ただ、じっと隼人を見詰め、何やら探るような表情を続けている。
華倉にも魅耶の行動が読めず、魅耶の出方を待つしか手段が取れずにいた。
暫くして、ふと、魅耶が顔を上げる。
「……屋外ですね」
そう呟いて、魅耶が再度隼人を見る。
「裏庭はありますか?」
魅耶の質問に、ええ、と隼人は突っ掛けに適当に足を入れて、外に出て行く。
その後に続いて、華倉と魅耶は瀧崎家母屋の裏手に回った。
裏庭は手入れが行き届いていて、松の木や石造りの花壇などが広がっている。
此処が何か、と首を傾げる隼人に何も答えず、魅耶は周囲を見回した。
見付けたのは、松の木と母屋との間に隠されるようにひっそりと存在している小屋だ。
魅耶がそれに駆け寄って行くのを、隼人が呼び止める。
「そこは職人さんの使ってる納屋です!」
勝手に触られると、と隼人は忠告するのだが、魅耶は何を構わず戸を開く。
一歩中に入り、しゃがみ込むと、床板に手を置いた。
「何すか?」
一緒に追い付いた華倉に、隼人がとうとう訊ねた。
いや俺にもまだ、と華倉が答えたときだ。
魅耶がおもむろに床板を剥いだ。
ぎゃっ!! と隼人が変な声色の悲鳴を上げた。
しかし、華倉は冷静に、その下から出て来た空間を見詰める。
「……地下に繋がってる?」
明らかに人が出入り出来るように加工されている階段が姿を見せた。
隼人も吃驚して、闇のように暗い空間を覗き込む。
「えっ、何これ……こんなとこあったの?」
「瀧崎知らなかったの?」
隣でぽかーん、と呆気に取られている隼人を見て、華倉がそう訊ねるように呟いた。