反抗
「散々振り回されて来た篠宮家にとってまたとない好機だ。これを逃したら本当に滅んでしまう」
真っ直ぐに弟を見詰め、言い切った菱人には何の迷いも見られなかった。
その態度が一層華倉の動揺を大きくした。
「騙すつもりだったんですか?」
顔面蒼白の華倉を気に掛けながら、そんな華倉に代わって、魅耶が菱人に訊ねる。
騙すという表現は心外だな、と断りを入れたものの、菱人は小さく頷く。
「説明が間に合っていなかったことは認める」
そう伝えられても、こちらは釈然としない。
魅耶は言葉こそ発しなかったが、表情では大いに不信感を露にしていた。
しかし、と菱人は一旦目を伏せて、すっと真鬼の方へ顔を向ける。
真鬼も厳しい顔付きで菱人を見ていた。
「……最鬼が実害を出し始めた、となれば、一刻の猶予も惜しい。待つだけ無駄だ」
睨むように目を細めた菱人と視線が合い、真鬼は耐えたが、華倉は恐怖して思わず俯いた。
そんな華倉の腕をまず掴み、それから真鬼に付いて来るよう菱人は告げる。
部屋を出て行こうとする菱人に、何処へ、と魅耶が引き留めた。
「強制的に憂巫女と鬼神たちの力を放出させる。まだ不安定な状態ではあるが……何もしないよりましだ」
強行手段に出ようと言うのだ。
何を馬鹿なことを、と魅耶が反射的に怒鳴る。
そのままドアの前に立ち塞がり、行く手を阻んだ。
「それが何を意味するのか、どれほど危険なことか、一番理解しているのは貴方でしょう!? 何を血迷ってるんですか!!」
「これ以上被害が出るのを黙って見ていられるか!」
華倉の腕を掴む菱人の手に力が入る。
爪まで食い込むくらいの菱人の圧力に、華倉の表情が歪んだ。
確かに可笑しい。
不安な瞳をそのまま菱人の横顔に向け、華倉は考えた。
何をこんなに焦っているのだろう。
確かに最鬼の暴走が想定外だったこと、実害を出してしまったことは菱人にとっても痛恨の一打だっただろう。
だからと言って、強行突破など思い至るだろうか。
菱人ならば逆に、被害に遭った対象へのフォローを済ませ、同時に体制を立て直すくらいのことをしていてもいいはずだ。