甘やかし
最悪。
社会人とかいう労働マンになってそろそろ8年近くなる。
そりゃ新卒上がりならどんなに怒られても仕方ない。
物を知らない状態だし、かと言って丁寧に教えてくれるわけでもないし。
怒られるのも給料の内、と必死に自分に言い聞かせて何とかやり過ごして来た。
しかしすっかり慣れた「今」はどうだ?
怒られるのめっちゃくちゃしんどい。
心臓に悪過ぎてまじ寿命削られた感ある。
その証拠に俺は帰宅してから小一時間、まじで動けない。
「つれぇ……自己肯定感根こそぎやられた……」
などと延々愚痴を漏らし続ける俺の頭を撫でつつ、大変でしたねー、と眞綾は相槌を打つ。
さすがにメンタルボコボコになった俺に泣き付かれ、小一時間膝を貸したまま。
「そりゃ俺も悪かったよ? いつになく不手際続いて食器めっちゃ割ったし。そのせいでフロアの仕事増やしたのもマズかったなって分かってる。でもさ、だからってキレ過ぎじゃない??」
これと同じ内容を、もう何回口にしただろうか。
眞綾はそれでも俺の頭をわしゃわしゃしながら、そうですね、と頷いてくれてる。
今日、ミスが続いた。
最初は小さなミスだった。
でもそれを引き金にどんどんミスが続いて、しかも輪をかけて大きくなっていた。
フロアのサブリーダーを務めている俺は、自分の仕事と同時にフロア全体と前後の調整もしなくちゃいけない。
でも今日は、言い訳するみたいで嫌なんだけど、最初の小さなミスが全体の「テンポ」みたいなものを乱してくれたみたいで。
後々全部が微妙にズレていって、苛々したり危ないやり取りが頻発した。
その中で俺は、グラスを落としたり皿をまとめて割ったりして、盛大にやらかした。
それにまた焦って冷静さを奪われる。
そん時に指も切ってしまった。
慌てて後輩2人が手当してくれたから、傷はそんなに酷くない。
でも、さぁ。
「こういう日に限ってチーフの機嫌悪いとかさぁ~~~~」
先輩に聞いたところによると、昨日派手に奥さんと喧嘩したらしいチーフ。
に、俺のミス現場をしっかり目撃されていた。
このチーフは普段本当に冷静さを具現化したような振る舞いをする人で、ミスも淡々と指摘するくらいなんだけど。