前戯
動きづらい。
原因は分かってるから、さっきから取り除こうと働きかけてはいる。
でもその原因である眞綾が、全然話を聞いてくれない。
「眞綾、手元狂うから離れて」
「えーもうちょっとー」
キッチンに立ち、作り置きのおかずを仕込んでいる俺を背後から抱き締めたまま、眞綾は離れようとしない。
勿論この作り置きは眞綾のためである。
数ヵ月に1度あるかないかの泊まりの日に、俺はこうして眞綾の食事の用意を手伝っている。
勿論次会うまでには全然足りないんだけど、会えない間全部が出来合いよりはましなはず。
単純に俺が眞綾に飯作ってあげたいっていうのもあるけど。
でも眞綾。
今日のこれは、眞綾が頼んできたことも忘れてないよね?
「あー、ほら、ブロッコリー茹で上がったから! ほんともう!」
タイマーの音に気付き、鍋の1つを確認。
ブロッコリーをザルに空けようと両手を伸ばすも、眞綾がその場から動かないのでちょっとシンクに届かない。
眞綾、と振り向いてちょっときつめに告げる。
眞綾は唇を尖らせて、ちょっと腕の拘束を緩める。
それでも解こうとしない辺り、多分ガチなやつだこれ。
水気を切ったブロッコリーを、こちらも茹でたエビと枝豆と一緒に甘酢で和える。
これで1品完成。
さてあと3つくらい、と記憶しているレシピを自分の頭の中で確認する俺の脇腹に異変が。
「わひゃっ!」
くすぐってぇ! と吃驚して変な声が上がった。
眞綾が再び、俺の胴にしっかり腕を巻き付け、その両手でわさわさしてきていた。
一向にやめる気配がないね。
「眞綾……もうちょっと待ってて欲しいなぁ」
まだまだ夜はこれからだし、とかふざけた説得を試みる。
しかし眞綾、そうなんですけど~、と理解はしているものの身体はそうは見えない。