時間が幾らあっても


「ごめんな眞綾。家事手伝わせちゃって」

 部屋着に急いで着替えて、俺は居間にいる眞綾の背中に向かって謝った。
 眞綾は一旦手を止めて、大丈夫っす、と笑う。

 社会人1年目の俺の生活は、ちょっと前までそうだった大学生の時から一変していた。
 まぁー時間がない。
 常に追われている。
 これが終わったと思ったら、次々に別の仕事が飛んでくる。

 確かに新人だし、覚えることはごまんとあるだろうとは思ってたけど、現実は俺の想像なんか悠に超えていた。
 むしろ俺の想像は夢か何かの類いに近かったと、今になっては思う。

 そんなわけで。
 俺の部屋はまぁまぁな荒れ模様。
 何とか飯食って寝る、という日々が続いていた。

 そんな中、久々の来訪者。
 現在就活真っ只中の眞綾だ。

 正直、この有り様の部屋に眞綾を上げるのは気が引けた。
 だってほんとにめっちゃ汚いんだぞ……自分でもドン引きするレベルで。
 そんな体たらくを眞綾に知られて、幻滅されるのも絶対嫌だったんだけど。

「戒人さんがここまで追い詰められてるんだったら、俺今日来て正解でしたよ」

 逆に、と眞綾は笑ってそう続けた。

 眞綾に嫌われる、という妄想に取り憑かれていた俺は、眞綾のそんな言葉に本当に吃驚した。
 眞綾はそんな風に考えてるんだ……と、自分にない物の見方をひとつ教えられた気分だった。

 だから、ちょっと遠慮も残っていたけど、上がってもらった。

 手分けして部屋のあらゆるところを片付けた。
 シンクに溜まった食器やペットボトル。
 脱いだものを突っ込んだまま回ってなかった洗濯機。
 エナジードリンクの空き缶とか、役所に提出するような書類の数々。

 とにかくゴミを一纏めにして、掃除機掛けてとかやっていったら、意外にも早く床が綺麗な状態を取り戻していた。

 洗濯物は乾燥まで済ませて、取り敢えずハンガーに吊るしてクローゼットへ、とやってくれている眞綾に、俺は普段のテンションで声を掛ける。

「それ終わったら休憩しよ。コーヒー淹れるね」

 眞綾の、はーい、という返事を背中で受けながら、俺はキッチンへ向かう。
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