【パラレル】知らぬが花
今回も最高の出来だった。
少なくとも華倉にはそう思わせるだけの内容であった。
余韻を噛み締めながらシアターの出入り口を潜り抜ける。
ロビーの照明自体もそれほど強くはないが、シアター内と比べたら煌々と感じられた。
此処は小さな映画館だ。
華倉が物心つく頃には存在していたし、それこそ全盛期はシアター数も多く、多くの客で賑わっていた。
しかし現在は近くに大型複合施設が出来、その中にある新しい劇場に客の大半を取られてしまった。
それでも街に馴染んだこの映画館は今も細々と営業を続けている。
新しい映画館の方ではやらない作品を上演してくれることも多々あり、華倉は今もこちらの映画館によく通っていた。
今日観に来ていたのもマイナーな作品である。
華倉の好きな監督の12年ぶりの新作映画だった。
相変わらず内容も演出もクセが強く、コアのファンにしか刺さらない独特な雰囲気だった。
華倉はそれが好きだった。
そしてそんなマイナー映画を上演してくれる、この映画館も大好きだった。
入場前に買ったコーヒーは、飲み切ることなく出て来てしまった。
一旦ロビーのベンチに腰を下ろし、冷め切ったコーヒーを空にする。
空いたカップを見て、改めて温かいやつを買おうと決めた。
つい2時間前に来た売店で、同じものをもう一度購入する。
それを片手にそのまま真横へ移動した。
ささやかながらグッズ売り場が設けられている。
そこにはこの映画館で一番人気(要するに世間的にも大人気)の作品のグッズを中心に幾つか商品が並んでいる。
その中に混じって、現在上映中の作品のパンフレットが一通り揃っていた。
あった、と華倉は小さく呟く。
先程観終えたばかりの映画のパンフレットも置かれていた。
そもそも発行部数が限られていて、そのくせ分厚く値段もそこそこする。