【パラレル】教えた理由
「逢坂魅耶には掠り傷1つ付けない」
俯いたままだった華倉の頭上から降って来る、唐突な魅耶の声。
華倉が顔を上げるも、魅耶は先程から殆ど姿勢を変えず窓の外を眺めたままだ。
しかし華倉の動きを察したのか、魅耶は一度軽く目を伏せると、その状態で続ける。
「真鬼が覚醒したときに僕が彼に取り付けた条件です」
逢坂魅耶の肉体を媒体としてしか真鬼はその存在を現すことが出来ない。
魅耶の意識を乗っ取ろうにも、何かが邪魔をして幸いにも未だ叶わずにいる。
真鬼は妖怪という種を守るためにどうしても戦いたいと言った。
人間の容れ物でしか動けないのは癪だったが、今はそれしか手立てがない。
真鬼は魅耶に取引を迫った。
その肉体を自由に使わせてくれるなら、何でも承諾すると。
だから魅耶は返した。
『僕という存在に、何1つ傷を残さないでください』と。
そこまで説明して、魅耶はやや冷めたハーブティーに口を付ける。
少しぬるいくらいになってしまったようだ、と言いたそうな視線を落として。
そんな魅耶の横顔を見詰め黙ったまま話を聞いていた華倉が、暫し間を置いた後開口する。
それは。
「それはひょっとして……遠回しに、戦うなって言ってません?」
華倉の問い掛けに魅耶は華倉の方を向き、にこりと笑う。
正解です、と魅耶は返した。
けれど実際はどうだ。
華倉は、魅耶の肉体を媒体にその力を現す真鬼と、もう幾度となく交戦している。
妖怪という種を絶滅させると意気込む華倉に対抗するために。