【夢小説】再次相见了


「ほんと岩場だらけね、此処。夷陵いりょうとは大違い」

 籠いっぱいに詰め込まれた衣類の束を度々抱え直しながら、温央ウェンヤンは言う。
 温央の前を歩きながらそれを聞いていた温寧ウェンニンが、小さく笑って応えた。

「夷陵を選んだのは姉上の指針なんだ。病人や怪我人の回復のためには、緑の多い場所の方がいいだろうって」
「確かにそうね。こんな冷たい場所にいても気が滅入るだけでしょうし」

 そう悪く言わないで、と温寧は温央を宥めようとするのだが、温央の嫌味は続く。
 温央~、と温寧が苦笑いを浮かべて振り向いて来た。

 此処は不夜天城、ウェン氏本家の本拠地だ。

 何処で誰が聞いているかも分からない。
 傍系の人間である温寧にとって、無用な波風は出来るだけ避けたい。

 そんな温寧の心配をよそに、温央はキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回す。
 温寧の手伝いで、不夜天城に物資の運搬に来た。
 此処に足を踏み入れるのは、温央にとっては初めてのことだった。

 通路はどこも薄暗く、自分の足元と目の前の人物を確認するのに精一杯。
 すきま風がどこからともなく入り込み、あちらこちらから物音が断続的に聞こえてくる。
 おまけにいくら進んでも造りが似たような景色で、自分が何処を歩いてきたのかよく分からなかった。

「此処も通路なの?」

 幾度目かの籠の抱え直しをしていた時、ふと視界の端に入った暗い空間に、温央は声を出した。
 行き止まりのように見えて、通路は奥へと続いているようだった。

 数歩先を行っていた温寧がその温央の声に気付き、あー、と慌てた様子で戻ってくる。

「そうだけど、私達はそっちは行けないよ」
「どうして?」

 温寧は温央を引っ張るようにその場からさっさと離れさせようとする。
 不思議がりながらもちゃんと付いて来る温央が訊き返すと、温寧は耳打ちするようにこそっと教えてくれた。

「そっちは特に、温若寒ルォハンの肉親かごく親しい人間しか入ることを許可されてないんだ。勿論私達みたいな傍系は駄目だよ」
「ふぅん」

 温寧の話が終わらない内に、温央は振り向くように、視線をその通路へと向ける。
 ということは、と一つの可能性を考えている温央に、温寧は「早くこれ置いて帰ろう」と声を掛けた。

 温情ウェンチンに指示された部屋へ向かうと、こちらにも受け取り係と思われる温氏の人間が控えていた。
1/5ページ
スキ