ペディキュア
仮眠から起きてきた俺を出迎えた結希はいつも通り寛いでいた。
ソファーに横になって、クッション抱えてスマホをいじっている。
もう慣れたものだし、まぁ何かしといてくれることもなくはないけど(洗濯とか)、こんな状態の方が普通なので気にはしない。
でも今日は、そんな結希自身に、ちょっと気になるポイントがあることに気付いてしまった。
俺はすっきりしてなかった意識から靄が消え去ったような感覚を覚え、黙って結希の足元へ向かった。
結希は右半身を下にして横たわり、左足が座面から落ちた体勢だった。
そんな結希の左足に触れ、結希に訊ねる。
「足どうしたの?」
俺が自分の足元にしゃがみ込んでも気にしてなかった結希が、俺の声に視線を寄越した。
そして自分の爪先を見て、あっ、と驚いていた。
ペディキュアだ。
結希は首だけ起こすようにこちらを覗き込み、それはそのー、とやや慌てた様子で言葉を選んでいる。
結希は普段こういうことは一切しない。
化粧っ気がないとは言い切れない程度にはお洒落はしているとは思うけど(あくまで男の俺から見た印象である)、アクセサリーとかいう飾りっ気はほぼないと言っていいだろう。
多分、今回のこれも結希自らの意思ではなさそうだ。
結希はクッションに顔を伏せ、少しずつ説明を始める。
「……この前さぁ、マヤ姉ェたちとパジャマ女子会してさぁ」
「パジャマ女子会」
ツッコミを入れたつもりではなかったんだけど、その単語のみを復唱した結果、ツッコミみたいに聞こえてしまった。
結希もそういうことはするのか、まぁ相手がマヤさんなら分からなくもない。
話によると、その日はマヤさんの部屋に数名集まり、深夜遅くまで喋ったり映画を観たりしていたらしい。
そんな時、ふとマヤさんから言われたんだそうだ。
『結希、爪塗ってみていい~? アンタこれ絶対似合うと思うんよ~』
ほろ酔い気味のマヤさんがスモーキーグリーンのマニキュア(今はネイルと呼ぶらしい。爪じゃん?)を見せながら言って来た。
結希は初め断ったそうなんだけど、1回だけー、とマヤさんは勝手に準備を進める。
『結希綺麗な足してるんだしさぁ、もっと可愛くしても罰当たんないわけよ~』
『誰に見せるわけでもないのに構うことないじゃん』
『つーか単純にアタシがやりたい! 佳乃子も見たいっしょ!?』