必要条件


 感覚が戻って来た。

 少しずつだが確実に流れ込むそれらを、真鬼しんきはうっすら感じ取り始めた。

 何か輝きを放つものがある。
 何かが音を立てている。
 何か掴める物がある。

 空気の流れ、匂い、肌に纏う湿度。

 ああ、そうか。
 真鬼は瞼を伏せたまま、気付く。

 戻って来たのだ、現し世に。

 暫くぼやけていた景色に、輪郭が描かれていく。
 しかし真鬼はその場から動けない。
 多少の自由は利くが、何かに繋がれているのか、可動域は限られている。

 何だ、と疑問を持つと同時にその気配がした。
 真鬼はようやくその瞼を持ち上げた。

 夜、のようだ。

 見慣れない家財道具たち。
 寝台と思われるその場に、1人の子供が眠っている。
 真鬼はその子供の傍らにいた。
 否、そこから離れられないのだ。

 こいつか。
 真鬼は静かに寝息を立てるその子供を見下ろす。

 まだ10代前半といった頃の男だ。
 子供は真鬼には気付いていないらしい、起きる様子もなく眠り続けている。

 そんな子供の枕元に真鬼は手を付いた。
 子供の顔を覗き込むように、真上から顔を近付けて。

『……起きろ』

 囁くように告げる。
 それでも子供は起きない。

 それが意味するところ、それはすなわち、今の真鬼の力が殆ど失われているということ。
 これほど強く殺気を伴う妖気を放っても、そもそも首に手を掛けられるほどの距離まで迫っているというのに、この子供は起きない。

 人間に、鬼神が負けているなど、心底面白くなかった。

 真鬼は更に身を乗り出し子供に馬乗りのような体勢になり、繰り返す。

『起きろ。このままその体、奪ってやってもいいのだぞ?』

 今出せる力の全てで子供に圧を掛けた。

 間が空き、ようやく子供の瞼が小さく揺れる。
 ゆっくりとその目を開くと、真鬼と視線が交わったようだった。

 少なくともこちらの姿は認識出来るようだ。
 真鬼がそれを理解し、話を続けようとしたときだ。

 意識が明確になったのか子供の表情が大きく動き、そして叫んだ。
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