朝が始まる
自然と目が覚めた。
アラームはまだ鳴っていないらしい。
変な時間に起きてしまうのは不本意で、アラームまであとどれくらいなのかを確かめようと魅耶は身動ぎをする。
しかし可動域が狭い。
その時やっと、華倉の両腕の中に収まっているのだと気付けた。
「おはよう」
魅耶が起きたことに華倉も気付いたらしい、直前まで魅耶の髪の毛をいじっていた手を止めて、華倉が顔を覗き込んだ。
魅耶はぼんやりとした輪郭でしか見えない華倉の顔を見詰め返しながら、おはようございますと掠れた声で応えた。
華倉がここにいるということは、夜明けまではまだ時間がある。
今日は、華倉が朝拝に向かうのを見送ってからもう一度寝かせてもらおう。
魅耶はそう考えていた。
昨晩の作業の疲れが取れていなかったのだ。
今、こんな時間に目が覚めてしまったのは、恐らくちゃんと寝付けなかったため。
知らぬ間にしっかり年は取っているものだ。
魅耶は何故かそんなことを改めて深く思い、やがて考えるのが面倒になって華倉の胸に顔を埋める。
華倉はそんな魅耶の髪の毛を再度いじり始める。
華倉も中途半端な時間に起きてしまったのだろうかと不意に魅耶は閃き、顔を上げて華倉を呼ぶ。
「もう少し寝てましょう華倉さん。そんな時間ないかも知れませんが」
構ってくれるのは嬉しいが、寝られるときは寝ていてほしい。
魅耶のそんな素朴且つ純粋な気遣いに対し、華倉は「うん」と返事はするものの手は止めない。
髪の毛の束を掬っていた指を離し、掌で広く頭を撫ぜる。
そのまま華倉の手は次第に後頭部から顔の方へ。
眠たげに閉ざされる魅耶の目蓋を親指の腹で、本当に柔らかく触れる。
目の周りをなぞるように動き、その指は最後に魅耶の唇へと辿り着く。
「華倉さーん……?」
その動きを見ていたわけではないが、触れられているので把握は出来ている。
不思議ではあるが好きなようにさせていた魅耶だが、唇をこうも何度もふにふにと撫でられては無視も出来ない。
第一くすぐったい。
何ですか、と再度目を開いた。
眼鏡がないので相変わらず見える輪郭はぼけたまま。
しかし華倉から伝わるその視線の柔らかさは感じ取れた。