聖獣の懸け事


 起き上がって窓の外を見ていた。
 中庭に見える花壇には、先日新たに植えた数種の花々がこぞって咲き乱れていた。

 鳳凰がぼんやりと風に揺れる花々を眺めているところへ、控えめに戸が叩かれる音がする。
 声を掛け、麒麟が顔を見せた。

 麒麟は本日、鳳凰に代わって天空界へと出向いていた。
 鳳凰が代理を務めている四神の1体、青龍神の仕事を済ませて来てくれたのである。

 鳳凰は白沢捕獲のため、元々消耗著しかった霊力の殆どを尚更に消費してしまい、現在満足に動けずにいた。
 聖獣鳳凰としての蘇生能力は未だ戻らず、それは他者に対してのみならず、己にも同じ影響を及ぼす。
 鳳凰は自身が思うよりも何倍もの時間を掛けなければ、体力も霊力も回復しない状態だった。

 幸い今の今までは大した争いに巻き込まれることもなく、蘇生能力を使う場面に遭遇することもなかったのだが、ここ数年は事態が異なった。
 鬼神最鬼の復活、そして憂巫女への強襲。

 それだけでも大事だいじに至るというのに、その鬼神復活の裏にいたのが、因縁の相手とも呼べる聖獣白沢はくたくであった。

 鳳凰はなし崩し的に憂巫女と共同戦線を張ることとなり、ただでさえ少ない霊力を白沢捕獲のために限界まで発揮した。
 その甲斐あってか無事最鬼を仕留め、白沢も捕獲することに成功した。

 現在その白沢は鳳凰と麒麟の棲むこの屋敷に監視のため幽閉――軟禁と呼んでもいいだろう――している。
 その白沢の犯した数々の罪に対する沙汰は、現在閻魔と神々の許進められている最鬼に関しての調査が済み次第下される予定である。

大神王たいしんおうも仰っていましたよ。そんな中、普段の仕事もよく済ませてくれていた、と」

 麒麟は報告してきた内容と、それに関する数点のフィードバックを鳳凰に伝える。

 鳳凰が担当しているのは、地球全体に関する監視と調査報告である。
 元々青龍神が担っている範囲のみになるが、地球という惑星の現状、そこに存在する原素から生物、環境や生態系まで、その全てを注意深く見て、調べ、異常はないかバランスは極端に崩れていないかなどの情報をまとめあげる。
 それを定期的に大神王、この宇宙空間総ての創造主が御座おわす天空界へと報告へ上がるのだ。

 麒麟からそう告げられたが、何てことはないと鳳凰は首を横に振る。

 確かに動くのは億劫だが、この作業には特段の力が必要なわけではない。
 時間は掛かるが白沢相手に動くよりは何倍もラクであった。

 白沢捕獲にどれだけ時間と手間を取られるかは鳳凰にも全く読めずにいた。
 そのため先に報告書をまとめておいたに過ぎない。

 が、鳳凰にとってはそれも懸念の1つであった。
 地球の様態は刻一刻と変化を続ける。
 昨日見ていたものが今日も存在しているとは限らず、その逆も然りだ。
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