甥っ子

「かぐらくんのとこに、カッパの手のミイラってある?」

 久し振りに甥っ子に話し掛けられた華倉にとって、それは想定外過ぎる内容だった。

 区役所での打ち合わせの帰り、実家に立ち寄った華倉は広政ひろまさの姿を見つけた。
 今日もどうやら学校を早退してしまったらしい。
 広政はリビングのソファーの隅に座って、何やら図鑑のような分厚い本を見ていた。

 広政、と声を掛けると、広政は一瞬、怖がるような反応を見せた。
 しかし相手が叔父の華倉だと分かると、こんにちは、と小さい声で挨拶をする。

「何見てんの?」

 華倉はまずそのまま、広政の顔を見ながら訊ねた。
 広政は慌ててクッションの下に隠していた本をゆっくり引きずり出す。
 妖怪図鑑、と書かれていた。

 華倉はそのタイトルに思わず驚いて、わぁ、と声が出ていた。
 広政はそんな華倉の反応に、何故か「ごめんなさい」と謝った。
 さっきからそんな広政の振る舞いが不思議で、華倉は声を掛ける。

「隣、座って良い?」

 広政は華倉を見ずに、小さく頷いた。
 華倉は広政から座席半分ほど距離を保って腰を落ち着ける。

「えーと……何てもんを読んでんだ、とかじゃないよ。その……そういうの好きだったっけ、と不思議になって」

 以前はそうでもなかったはず、と華倉は考える。
 まだウルトラマンとかに熱中してたはずだ。

 広政はようやく華倉を見て、最近、と答えた。
 そうか最近になって、華倉がそう呟くように繰り返したのを聞いてから、広政は続ける。
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