後悔先に立たず。


 頬に当たる感触の冷たさに目を覚ます。
 どうしてこんなに硬いんだ、と思って確かめようと手元を見ると、そこは見慣れない畳の間だった。

 鳳凰はそこが何処なのかが瞬時に把握出来ず、もう少し情報を得ようと上体を起こす。
 襖の隙間から差し込む陽射しがやけに眩しく、それにより頭重が増していくようにも感じられた。

 どうして自分はこんなところで寝ていたのだろうか。
 考えたくても全く思考が言うことを聞かない。

 麒麟を呼ぼうと頭を上げたときだ、丁度よく、襖が開いた。

「鳳凰起きた? おはよう」

 姿を見せたのは華倉だった。
 おお、と上の空で返事をしたものの、鳳凰はその違和感に気付く。

 自分の傍に座り込む華倉を凝視して、何故ここに、と真顔で訊いた。
 しかし華倉は一瞬だけ驚いただけ、覚えてないの、と笑う。

「昨夜、浅岡先生と呑んだ帰り、うちに来て散々喋り倒してそのまま寝ちゃったんだよ」

 はい水、と華倉が鳳凰にグラスを渡した。
 華倉からの話を聞いて、鳳凰は頭を抱えて記憶を辿る。

 そう言えば、浅岡都と呑みに出たのは確かだ。
 しかし、だからと言って何故ここに来たのだろう。

 鳳凰は自分に対し、真剣にそう訊ねる。
 しかし鳳凰の思考はそれ以上はさっぱり働かない。

 代わりに出て来たのは、脳みそを鷲掴みにされたまま、左右に捻られたかのような吐き気。
 きもちわるい、と俯いて唸るように呟く。

「やっぱり二日酔いだね~……。もう1回寝な」

 毛布要る? と華倉が鳳凰に訊ねながら立ち上がる。
 それはいい、と鳳凰は答え、先に手渡されていた水を飲んだ。

「水で絞ったタオル持って来るよ。もっと水飲む?」

 華倉の申し出に、鳳凰は「頼む」と返事をした。

 井戸水で絞ったタオルを目の上に載せて脱力する。
 昨晩の自分の行動はさっぱり理解が出来ない、が、この状態では考えようにも具合が悪い。

 諦めて今は休むことにした鳳凰は、ふと気付く。

「……魅耶は?」

 さっきから声すらしない。
 華倉が自分と一緒にいるというのに姿がないとは、と疑問に思った鳳凰に、華倉は答える。

「仕事で出てるよ。今日はどうしても対面でって言ってたから、何とか送り出した」

 ははは、と笑いながら。

 ああ、やっぱりごねたのかと鳳凰も理解する。
 過去、自分がやってきたことを考えれば、当然の振る舞いだろう。

 鳳凰はそう、やけに冷静に思考している自分に気付いていた。
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