カウントアップ
「好きです篠宮先輩!! お友達から始めさせてくださいっっ!!」
それが彼女の第一声だった。
「あー、あの子? 今年の夏休み明けからうちの研究室入ってきた一年生。桑嶋容子さん」
俺から今日の昼飯である弁当の入ったレジ袋を受け取りながら、秋士(しゅうじ)が答えた。
何で何も知らない俺から見返りをせびるんだ、と取り敢えず一言文句をぶつける。
秋士は愉快そうに笑いながら、後輩の女の子からたかる訳にはいかないだろ、と真っ当な理由を述べる。
それはそうだけど、俺が訊きたいのはそういうことじゃない。
「せめて俺に前以て言っておいてくれてもいいものを」
俺は溜め息を溢しながら、秋士の前に座った。
今日は講義が2限からなので、いつものように中庭に面するカフェのテラス席にいた。
そんなところに、例の彼女――桑嶋容子さんがやって来た。
名乗りもせず、いきなりの告白。
そして何故か友達から始めてくださいとかいう指定。
取り敢えず何と応えていいのか分からなかった。
それにテラス席とは言え、屋内の席は近いし、そこには他の学生の姿も少なくなかった。
正直な話、その状況をどうまとめていいのか思い付かなかった。
暫くお互い黙ったまま時間が過ぎていく。
すると桑嶋さんが俺の様子を窺いながら、恐る恐る訊ねる。
『……やっぱり、駄目ですか?』
いや、駄目も何も。
俺、状況が把握出来ずに困ってるんですよ。
そうだ、まずそれを問わなければいけないわ。
我に返った俺は、桑嶋さんを自分のテーブルに着かせて、名前と、今の告白は何の話かと、何故俺を知っているのかを訊いた。
んで、そこで出てきた名前が、今俺の目の前で飯食ってる同期。
「研究室の案内とか、後輩への指示とか任されてるの俺なんだけどさ。それで色々喋ってたら、あの子、菱のこと好きだって言うから」
だから俺がこの曜日のあの時間にテラス席にいることを教えたんだそうだ。
で、その情報提供料は、俺にツケといた、と。
確かにその話は桑嶋さんも同じことを言っていた。
何やってんだこいつは、と聞いてて頭が痛くなってきた。
「菱、彼女いないんでしょ? 別にそんなに怒ることじゃなくない?」
唐揚げをよく噛んで、口の中にスペースを作ってから、秋士はそう訊いてきた。
そりゃ、その辺は事実だけど、いきなり来られるのはよして欲しい。
「え? 駄目だった?」