自責と罪悪
魅耶の身体には意外と傷跡が多い。
「意外」だと思っているのは俺だけかも知れないけど。
そう言えば魅耶は幼少期、いじめられっ子で、たんこぶ作ったりはしょっちゅうだった。
だから頭部には、普段は見えないけど、ちょっと切った跡とかもある。
——なんてことを、腹部の傷跡に触れて思い出していた。
いつもは見えない箇所。
見えないから気にも留めない箇所。
でもその傷跡は、数年経った今でも生々しく、くっきりと遺っている。
本当に痛々しいのは、傷跡そのものじゃないから、だろう。
「どうしました?」
急に動きを止めた俺に気付いたのか、魅耶が声を掛けて来た。
明かりは最小限。
相手の表情だって、近付かないとよく分からない。
そんな視覚を遮られた状況で、その魅耶の声はよく響いた。
別に、そんな警戒する声色じゃない。
本当に不思議に思ったから訊いた、そんな声だった。
何でも、と答えようとしたのに、俺は声が出せなかった。
さす、と魅耶の腹部の、その傷跡を丁寧に撫でるだけ。
ちゅ、と再度、魅耶の肌に唇を落とす。
確かにこういう時になると、嫌でも思い出してしまう。
でもそんなことは、魅耶に触れない理由にはならない。
「くすぐったぃ……」
ふふ、と魅耶が笑う。
脇腹に掌を添えて、キスを続けていた俺の頭上に、魅耶の声が降って来る。
ちょっとしつこかったかな、と気付いて「嫌?」と訊いた。
顔は上げずに。
魅耶はそうではないと答えて、す、と俺の左手に自分の右手を重ねる。
そのまま俺の指を一本一本絡め取るように、侵入を果たす。
「……怖いことでもありましたか?」
ちょっと上体を起こし、魅耶が俺の顔を見下ろしながら、そう笑った。
俺は魅耶の腹部に頬を載せ、ううん、と嘘を吐く。
絡めてもらった指は、一層強く握りながら。
魅耶の左手が伸びて来る。
さす、と俺の髪の毛を撫でて、頬を撫でて。
それ以上は追及する気はなかったらしい、そうですか、と呟いた。
這いずって、魅耶の上に覆い被さる。
ぎゅ、と自分の身体で覆い隠すかのように、すっぽり腕に収めるように抱き締めた。
特に何をしたいわけじゃなかった。
魅耶も何か言って来るでもなく、ただ黙って、俺が落ち着くのを待ってくれる。
『怖いことでもありましたか?』
そうだね。
魅耶は変わらず此処に居るのに、何でこんなに不安になるんだろうね。
2020.10.15
(わたしは恋だと思います)