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山中の見回りから戻って来たはずの華倉さんが、なかなか上がって来ない。
おかしいな、と思って居間まで出て行くと、縁側に座っている華倉さんの後ろ姿が見えた。
何か手に持っているのか、ちょっと背中が丸くなっている。
「お帰りなさい華倉さん」
まずは帰宅を出迎える。
僕のそんな呼び掛けに、あっ、と華倉さんは顔を上げて反応した。
何でちょっと吃驚してるんですか。
どうかしたんですか、と訊こうと思って、口を開きかけて、止める。
華倉さんの手の中にいる「それ」に気が付いたからだ。
うごうごと手足をバタつかせて何かを訴えている、仔猫。
みーみーと鳴く小さくて高めの声。
取り敢えずブツを確認出来た僕は、自分から話し出そうとしない華倉さんに訊ねる。
「……どうしたんですか、それ」
あんた山中の見回りに行ってたのでは?
僕が至って落ち着いた普通のテンションで話し掛けると、怒らないでよー、と華倉さんは言う。
怒ってないんですけど。
どうやら自分では落ち着いていると思っていたこの態度は、華倉さんからすると怒っているように見えるらしい。
今この時初めて知った。
取り敢えずその話は後々するとして、今は先に仔猫だ。
華倉さんは仔猫の顎をむにむにつまむように撫でながら話を続ける。
「いつの間にやら後付いて来ちゃってて。多分母猫とはぐれちゃったんじゃねぇかと」
「そうなら、今その母猫が探してるのでは?」
みーみー、と訴え続ける仔猫の鳴き声は、母猫を呼んでいるということだろうか。
だったら母猫が塒(ねぐら)にしているであろう場所近くまで戻した方が、と僕は言ったのだが、華倉さんは首を傾げる。
「それがどの辺だかわからないんだよ。暫く一緒に歩いて来ちゃったし」
えー、と眉をひそめて返す僕に、華倉さんは「取り敢えず」とちょっと話題を変える。
「牛乳か何かあげたいんだけど、ある?」
正直仔猫に何を与えてもいいのかとか良く分からないので、そういう議論もせずに、牛乳を持ってきた。