おやすみ
多分眠りが浅かったからだと思う。
隣で人の気配がして、目が覚めたのは。
まだ夜が明けそうもない、しんと静まり返った寝室。
俺はようやく寝るらしい魅耶に声を掛ける。
「仕事終わったの?」
もぞ、と自分からも魅耶に近付いていく。
魅耶はちょっと吃驚したように俺を見て、起こしちゃいましたか、と小声で返す。
そうじゃないよ、と言いながら、自分の方へくっついてくる魅耶の頭を軽く撫でた。
魅耶はそれに安心したのか、んん、と疲弊したような溜め息を溢して、俺の首元と布団の間くらいに顔を伏せた。
今何時だった、と訊ねる俺に、3時半だと魅耶は答えた。
「今から寝て起きられる?」
起床時刻は決まっていて、それは主に俺のお務めがあるからなんだけど、大体魅耶も一緒に起きてくれるから、心配になって訊いた。
今からでは3時間も寝ていられない。
明日、というかもう数時間後のことなんだけど、無理しないで寝てていいよ、と俺は続ける。
でも魅耶は、ん、と曖昧な返答をしただけ。
ぎゅうと俺にくっついて、俺の胸に顔を埋めた。
「……お構い無く。僕が好きでやることなので……」
時間通りに起きるぞ、ということらしい。
そう、とだけ返して、俺はそれ以上は何も続けず。
取り敢えず今は、1秒でも早く魅耶が眠れればいいかな、くらいに考えていた。
髪の毛だけに触れるくらいの弱い力で、何度も魅耶の頭を撫でる。
魅耶はさっきから顔を上げず、でも時々、ふぅん、と気の抜けた声を漏らす。
寝てはいないようだった。
「……きもちいい?」
撫でてるの、と手を止めずに魅耶に訊ねてみた。
案の定そうだったらしい、はい、と魅耶は答える。
その時ようやく、魅耶がちょっと顔を傾けて、俺を見上げた。
表情はすっかり微睡んでる。
でも、すり、と俺にくっつくのはやめない。
何て言うんだろうか。
「……嬉しそう」
「んぅ?」
さっきから言葉にまではならないけれど、気持ちはわかる、そんな声を発し続けている魅耶。
そんな魅耶を眺めていて、ぽつり、と零れた感想だった。
「飼い主に撫でられて嬉しそうにしてるペットみたい」
よく動画であがってるやつ、と俺は素で話していた。