暑気中(あた)り
「暑過ぎんだろ」
俺は窓を全開にしてある居間に俯せになりながら文句を垂れた。
今日も気持ちいいほどに快晴、陽射しは絶好調。
ほんと容赦ないわ。
「そうですか?」
物音がしていた台所から、魅耶の声が聞こえて来た。
どうやら居間に上がって来たらしい。
って言うか、ほんとに魅耶はこの暑さを感じないの?
「暑いよ~……酷くないほんと。もう9月も半ばに差し掛かろうと言うのに」
一旦涼しくなって、このまま秋へ移ろうかと思われた月末。
これはほんと油断するからね、誰だって油断して、同時に安堵してたんだからね?
「何思い出したかのように暑さぶり返してくんの……? 考えられない……」
ぐでぐでと畳の上で蠢きながらぶつぶつと続ける。
はぁ、という魅耶からの相槌には、あんまり覇気は無い様子。
あっつい。
こんなことなら菱兄ィの言う通り、エアコン取り付けておくんだった。
「あー解せない……これが地球のやり方かよ……じわじわダメージ与えてくなんて性格悪ィな……」
「華倉さんもそんなこと思うんですね」
ほほう、と何故か感心している魅耶。
そりゃ思いますよ~こうも暑いと思考回路なんか正常に働くかってんだ。
ああぅ、と窓の方に顔を向けて横向きになり、俺はじりじりと灼けている庭の緑を眺めながら呟く。
「……今鳳凰が来たら理由もなく殴りそう……」
「……暑さは人をこんなにまで暴力的にするんですか……止めませんけど」
鳳凰へのとんだとばっちりを止める者がいないという事実が余計しんどい。
まぁ冗談だけど、と一応嫌疑が掛からないように保身の一言。
はぁ、なんて、それでも出て来る溜め息。
もう息をしているだけで体力消耗されていく。
暑さは健康に悪いな……。
「――ひゃうっ!!?」
とか何とか、完全に油断していたせいか、そんな声が出た。
というかこの状況で魅耶がそんなことするなんて俺に予測出来るはずがなかった。
そんなことを魅耶がして来た。