第3話
目が覚めたときにはアラームがけたたましく鳴り響いていた。
ぱっちりと目を開いて見えたのは自宅の天井だ。
春己は取り敢えず起き上がるとアラームを探して止める。
倒れるように寝ていたのはリビングの床の上、服装は昨日のスーツのままだった。
自分はいつ帰って来たのだろうか、それもどうやって。
何一つ思い出せずに暫しその場に座り込んだまま考えていたが、今日もまだ平日だということを思い出し、慌ててシャワーを浴びに行く。
遅刻と言っても間違いではないくらいの時間に何とか学校に着いた春己は、やけに騒々しい職員室に忍び込むように入っていった。
「おはようございます仁科先生。ギリギリですね」
ふふと笑う丘嶋にややぶっきらぼうに挨拶を返し、春己はついでに問う。
「何かあったんですか? 変に騒がしいようですけど」
そんな春己の質問に、丘嶋は淡々と答える。
「何でも消えちゃったらしいんですよ、あの蝋人形」
あの蝋人形、とは、図書室に飾られているあれのこと。
そう、昨夜何故か動き出して、春己を強引に襲った例の彼だ。
驚く春己に丘嶋は教えられたことだけだが手短に説明してくれた。
朝一番いつものように教頭が校内を巡回していたところ、図書室の中から物音がしたらしい。
もう誰かいるのかと思い近付いたが、出入り口のドアには鍵が掛かっている。
スペアキーで解錠し室内を見ると窓が開いていて、風でカーテンが揺らされ、それが近くの棚に当たっていた。
その風は他にも近くの棚の雑誌などを落としたり、ページを捲ったりしていた。
それを拾おうと教頭が近付き、顔を上げた先に見たものに驚愕した。
蝋人形だけが忽然と消えているではないか。