接触
朝拝の祝詞を終える。
祭壇に深く一礼すると、華倉は空気の流れの変化に気付いた。
拝殿の戸が全開ゆえの風が吹き込んできたものとは異なる、それは「気配」だ。
華倉は立ち上がってから背後を振り向く。
明らかに魅耶ではない者の気配。
「鳳凰?」
戸の向こうでこちらの様子を窺っているのだろう、姿はまだ見えなかったが、華倉には廊下に映る人影が確認出来た。
華倉の声に、鳳凰が静かに拝殿の中を覗くように顔を見せた。
「どうしたの、そんなよそよそしく」
華倉が不思議そうに訊きながら鳳凰の方へ近付く。
鳳凰はそのまま寄り掛かるように戸に身体を傾けて軽く天を仰ぐ。
礼拝が済むのを待っていたらしい。
そのことを聞き、華倉は軽く微笑んで礼を述べる。
心遣いは有り難かったが、同時に心配も抱く。
こんな朝早くに鳳凰が此処を訪れたことなど、今まで数えるほどもあっただろうか。
連絡も満足に取っていなかったこの間に、何か良からぬことが起きたのではないか。
一度そう考え始めると華倉はどうにも落ち着かなくなる。
何の用件なのか早く知りたいのはやまやまだが、それでもこちらから話を急かすことも憚られた。
それというのも、鳳凰の顔色が良くないせいもあった。
表情が浮かないのもある、しかしその下には単純に「体調が悪そう」なことが見て取れた。
華倉は黙ったまま、鳳凰から切り出すのを待っていた。
鳳凰は後頭部と肩を戸に預けた体勢で暫し目を閉じていた。
それから静かに目蓋を開き、流れで華倉の方へ顔を向ける。
それでも沈黙が続く。
華倉はさすがに待ちきれなくなってきた。
鳳凰、と華倉から呼び掛けたと同時に、鳳凰が上体を起こす。
1歩、2歩のその距離を音もなく詰めると華倉の真正面に佇む。
その瞳はどこか薄暗い。
「……?」
華倉が眉を顰めて鳳凰を見返す。