しがらみと責務
1ヵ月後。
広政の検査結果が出たとの一報を受け、華倉は実家を訪れていた。
その間、広政の様子は以前のように快活そのものであったが、検査結果が出るまでは注意して見守るようにしていた。
「身体機能に異状はなし、あの日以降気絶することもなくなった。これは解決したと見ていいだろう」
検査結果が書かれた診断書を見ながら菱人が言った。
本人や家族には前日に報告済み、真鬼に関しては2度同じ話を聞くことになったが、それでも安堵した表情を浮かべている。
よほど心配していたのだろう。
華倉は今日も疲れているような、怠そうな顔付きをしている真鬼を横目で見て思う。
真鬼がいてくれて本当に助かった。
広政に関してもだが、最鬼についても、だ。
真鬼が密かに最鬼の注意力を削ぐような細工を仕掛けてくれていたことを華倉が知ったのは魅耶の口からだった。
あの日、麒麟が鳳凰を迎えに来て、それを見送り、真夜中まで起きない真鬼に代わって魅耶が色々教えてくれた。
本当は最鬼に関しても真鬼は自分が介入するつもりでいたらしい。
だが、白沢の出現が同時に起きてしまい、真鬼は広政を選んだ。
『ギリギリの選択だったと思います。最鬼を討てば真鬼は鬼神としての力を一気に失うことになります。一歩間違えれば華倉さんも広政くんも助けられなかっただろう状況で』
魅耶に言われて華倉もその時気付いた。
真鬼が今回広政を助けることが出来たのは、鬼神の力が問題なく作用していたからこそ。
幸いにも先に白沢を追い出してから最鬼を討つ流れになったが、この順序が逆だった場合はどうなっていたかは分からない。
最鬼だけは討てたかも知れないが、広政は助からなかった可能性は十二分にあった。
それでも真鬼はやってのけた。
『僕に、華倉さんを選ぶよう忠告までして』
ギリギリ、本当に一瞬でも、間に合えば良かったのだろう。
あの時には真鬼はもう、自分も消滅する覚悟をしていたのかも知れなかった。
そんな話を魅耶としていたことを思い出しながら、華倉は真鬼を見ていた。
真鬼が口を開いたからだ。
「……ただ、全く後遺症がないわけでもないらしいことは、広政が言っている」
これは昨日は言わなかったのだが、と真鬼が切り出した。
真鬼の話に菱人が眉を顰ませてやや身構えた。
それは1週間ほど前のこと。