管理下


「使っていない部屋は幾つかある。どこを使うか選べ」

 麒麟は前を向いたまま、大人しく後ろを付いて来る白沢にそう告げた。
 白沢は勿論不本意である。
 しかし経絡けいらくを封じられ暴れようのない現状、この男の言う通りにするしか出来ることはなかった。

 白沢が連れて来られたのは普段鳳凰と麒麟が過ごしている場所、所謂鳳凰の棲家である。

 わざとらしく溜め息を吐きつつ、白沢はぐちぐちと文句を垂れる。

「よく一緒にいられるわねアンタ達。何で鳳凰なんかと同じとこで過ごさなきゃなんないのよ」

 さいあく、と白沢は言う。

 恐らく誇張でもなく本心であろうことは麒麟にも充分伝わって来る。

 仕方がないのはお互い様であるというのに。
 麒麟はそうは思ったが口には出さず、代わりの返答を述べる。

「互いに利があるんだ。私とて、鳳凰がああならなかったら今此処にはいないだろう」
「ほーん。あたしのせいですってか?」

 白沢は少し駆け足になって麒麟の前に回り込み、軽蔑の意を含ませた笑みを見せつけた。
 麒麟は白沢の挑発に乗ることもなく、そうなるな、と淡々と返す。

 再度白沢に部屋の希望を取る麒麟に、白沢は面倒くさそうに息を吐きながら「鳳凰から一番遠いとこー」と答えた。

 今後、白沢の一連の行いは神々へと報告後、沙汰の有無を受けることになる。
 お咎めなしという可能性はほぼないため、神々による沙汰の判決後は、白沢は暫く此処で鳳凰と麒麟と共に過ごすことになっていた。

 麒麟は白沢の希望を受け、まず先に鳳凰の使っている部屋を教えた。
 それから敷地と屋敷全体の配置、その上で白沢が希望する、鳳凰の私室から一番離れた現在未使用の部屋へと移動する。

 ぐるりと中庭を囲む回廊を渡っている途中、ん、と白沢が何かに反応を示す。

 中庭には様々な花が咲き乱れる花壇が設けられている。
 恐らくその中に興味の惹かれる薬草でも見付けたのだろう、麒麟はそこまで考えた。

「誰の趣味? もしかしてアンタ?」

 白沢の独り言のような呟きに、麒麟はすぐに口を開きかけてはっとなる。

 白沢は知らないのだ、憂神子という人間がその昔此処に住んでいたことなど。
 その人間の趣味で中庭にこんな花壇が造られたことも。
 それが今も尚、麒麟と鳳凰とが自らの手で維持し続けていることも。
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