破食
まさか自分が標的になるとは考えてもみなかった。
華倉は何とか離れようと咄嗟に最鬼の肩を押し返そうと試みるが、何に当たる感触もなくそのまま入っていってしまいそうな柔らかさに衝撃を受ける。
その手は反射的に引っ込めたが、全身には既に半液状化したかのような最鬼の輪郭に包み込まれ始めていた。
華倉、と焦燥感に駆られた鳳凰の声が背中に響く。
自分が殺される場合の想定は何度も繰り返した。
けれど、吸収される可能性があったとは微塵も想定していなかった。
この場合はどうなるのか。
鳳凰と麒麟が懸念していた「手段」を取る羽目になるのか。
『
駄目だ。
華倉は何の支えもないままに、上体だけでも仰け反るように脱出を試みる。
死ぬわけにはいかない。
こんなところで、こんな形で。
どうにか最鬼から距離を取りたい。
一瞬でも隙を作れないかと華倉はとにかく手足を動かす。
最後まで形を保っている最鬼の顔が汚らしく笑い、足掻いても無駄だぞと地を這うような声で囁く。
「っ、ざけんな……っ」
お前なんかにくれてやる命は、ここには1つもない。
華倉はそんな怒りのような黒い感情を持って、右腕を目一杯に背後まで振るう。
手には「鍾海」が握られていた。
腕に勢いを付けて、右手の「鍾海」を最鬼の首筋だったところに力任せに突き刺した。
しかし手応えは殆どなかった。
ぐにゃあり、とでも表現したくなるような、柔い感触。
斬れることも穴が開くこともなく、ただ「鍾海」は
「――……!」
華倉の顔から一切の感情が消えた。
茫然となった華倉に隙が生まれてしまい、完全に全身から力が抜けてしまっていた。
にたり、と最鬼の卑下た笑みが華倉の蒼白した眼差しを捉える。
「残念だったなぁ」