アンインストール


 恐らく今回も長くは侵入していられないだろう。
 魅耶が傍にいる間ならまだしも、華倉も広政も、事態が待っていてくれるような状況ではない。

 真鬼は湧き上がる焦りを必死に抑え込み、意識を少しずつ広政の中へと落としていく。
 それというのも、以前よりも入り込みにくくなっていたせいもあった。

 慎重に、傷付けることのないように、ゆっくりと沈み。
 目蓋を開くと目の前には薄らぼやけた何かの姿があった。

「またきたの?」

 後ろ側にいる、黒い影のような姿がそう発して来た。
 真鬼の存在に気付いて、視線をこちらへ向けたかのような素振りも見せた。

 しかし実際のところはよく分からない。
 それほどまでに白沢は己の形を溶かし、広政へ流し込み、同化を進めていたのだ。

 今広政は、白沢の腕であっただろう長い2本のものに包まれるように抱え込まれている。
 広政の姿はまだ輪郭を保ってはいるが、右半身が呑まれていくかのように、白沢だった黒い影に埋まっている。

「広政を返してもらうぞ」

 一歩、白沢に近付きながら真鬼は言う。
 しかし白沢は薄い笑みを零して、どうして、と返す。

「このこはもうわたしになるの。聖獣のちからとたちばをえて、白沢としていきるのよ」

 だってこのこはいったわ。

 えいえんに生きるのもわるくない、と。

「わたしといっしょにいるのなら、えいえんに生きるのも、と」

 広政の頬に黒い手のような塊が伸びる。
 広政の顔をその塊で掬い上げ、白沢は自分の顔だったものに近付けた。

 このこは聖獣わたしをうけいれた。

 白沢の声はそう呟く。
 とても満ち足りたような声色で。

 けれど真鬼の表情は青く、それでいて怒りに歪んでいた。
 怒りと侮蔑と憐憫の色とが、真鬼の表情を複雑なものにしていた。

「分かっているんだろう、本当は」

 真鬼がまだ一歩、2人に近付きながら切り出す。

 白沢はもう返事をしない。
 愛しそうに広政を包み、少しずつその身体を呑み込んでいく。
 その綺麗なロングヘアのような黒い影で絡め取るように。

「お前の言う永遠と、広政の言う永遠が同じ時間でないことくらい、お前だって分かっているんだろう?」

 歩みを止めず、真鬼はゆっくりと右手に力を溜めてゆく。

 恐らくこの手段が通用するのは最初の一度限り。
 この聖獣に同じ手は二度と通じない。

 真鬼の側としても条件は似たようなもの。
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