死にかけの器
どうして最鬼が此処に。
いや、最鬼が総本山に隠れていることは既に分かっていた。
けれどどこに、どうやって潜んでいたのだ。
そして何故今出て来たのか。
それも姿をこうもはっきりと現せる形で。
そして、何故その最鬼が、卑刀「鍾海」を握っているのか――
華倉には何1つ分からないことばかりだった。
目の前には手負いの鳳凰がいる。
闘おうにも唯一の武器は最鬼が構えている。
まずは、どうすれば。
動揺し、手が震えるばかりの華倉を見て、最鬼は笑っている。
地を蹴ると軽やかに跳躍し、こちらへ刀を振り下ろして来た。
しかし、「鍾海」が獲物を捕らえることはなく、刃は華倉の頭上で何か壁のようなものに弾かれていた。
「鳳凰!」
上がる呼吸を押して、上体を起こした鳳凰が結界を張ったのだった。
華倉はその鳳凰の顔を見て、ようやく止血を間に合わせる。
本当に応急処置でしかないため、鳳凰をこれ以上は動かせたくない。
ふん、と鼻を鳴らし、最鬼が一旦地に戻る。
「いつまで保つかな、そんなもの」
最鬼の挑発に、華倉は一度は感情のままに言い返しそうになった。
けれどすぐにその言葉を呑み込み、湧き上がった怒りを鎮めてゆく。
落ち着け、落ち着いて、まずは把握しろ。
「何処に、いたんだ……お前」
こんな素直な訊き方で答えてくれるのだろうか。
しかし今は気を鎮めるだけで手一杯だ。
うまい訊き方など思い付かない。
だが華倉の懸念とは裏腹に、最鬼にとってはどうということではないのか意外にもあっさりと答えてくれた。
「ずっといたぞ、此処に。お前たちのすぐ“手元”に」
手元、という言葉に、華倉は気を失いそうなほどの静かな衝撃を覚えた。
まさか。
最鬼の姿を再度目に映す。
姿は視認出来る、けれどよく見ればその輪郭は多少ぼやけていた。
その手に握られた「鍾海」が、微かにだが振動している。
まさか、だ。