誰の声
総本山は気が整っていて、とても居心地が好い。
それは鳳凰も感じていることだった。
本来ならば聖獣である
けれど弱り果てている現状、総本山に暫時でも滞在し、回復を図ることは魅力的だった。
今は華倉に稽古をつけるという尤もらしい口実もある。
ただこうして縁側でぼんやりと過ごすだけでも、随分と気分が落ち着く。
そんな鳳凰の意識に近付く、微かな足音。
それが人間のものか人ならざる存在のものか、初めは判断がつけられなかった。
けれどすぐに匂いで人間のものと分かると、鳳凰は虚ろだった
「あ、起こしちゃった?」
華倉が顔を覗き込みながら訊いてきた。
鳳凰は微笑みながら首を横に振り、構わぬと返す。
鳳凰の顔色が良くないことは華倉にも分かっていた。
そんな不調を押してまでこちらに力添えをしてくれていることに、少なからず罪悪感も覚える。
しかし恐らく鳳凰が「大したことではない」と言ってくれることも想像に難くなかった。
華倉は鳳凰の隣に座り、寝てていいよと再度伝えた。
「此処が落ち着くなら、休めるときに休んでいって」
以前真鬼も言っていた。
総本山は気が整っていて居心地が好いから、不調を治すに適していると。
真鬼は聖獣たちの出入りも関係しているようなことを口にしていたが、それは逆を言えば鳳凰にも当て嵌まるのかもしれない。
強大な力を有する鬼神が出入り出来るほど、気が整えられ管理されている場所。
そこが聖獣にとって居心地が悪いとは考えにくい。
そう言えば鳳凰は実際、此処でなら眠れるといったこともあった。
華倉はそれを思い出して鳳凰の方を見て訊く。
「何なら布団用意しようか? 今日はもう予定ないし」
そう提案する華倉の顔をじっと見詰めていたが、鳳凰は華倉が言い終わらない内に顔を伏せる。
華倉の肩に凭れ掛かるように重心を傾けて。
構うなとまた断りを入れ、今度はこうも続ける。
「こうして居させてくれ」
鳳凰の体勢としては、決してラクなものではなかった。
けれど、何故か華倉にはその時の鳳凰の思いがよく分かってしまって、うん、と返すしかなかった。