害の勝機


 買い出しから戻った魅耶がまず目にしたのは、拝殿の戸の前で佇む鳳凰の姿だった。
 魅耶はまず玄関から家の中へ入り、買って来たものをきちんとしまってから、その足で拝殿に通じる廊下を進む。

「入らないんですか?」

 声は充分届くが必要以上に近寄りはしない、そんな距離を保てるところで立ち止まり、魅耶は鳳凰の横顔に声を掛けた。
 その横顔はやや物憂げな、それでいて緊迫したような強張りを見せていた。

 鳳凰が顔を上げ、魅耶を横目で捉える程度にこちらを向く。
 それから再度視線を拝殿の中へと戻して言った。

「入れないのだ」

 鳳凰からの返答に、魅耶はきょとんとなる。
 言葉の意味を掴めずにいたのだ。

 しかし鳳凰のその言葉は、そのままの、額面通りの意味でしかなかった。

「拒絶されているらしい。ここから先へは進めない」

 そう言いながら見せるように手を伸ばす。
 確かに何もないと見えるその空中で、青白い電流のようなものが姿を見せ、鳳凰の指先を弾いた。

 入れないのだ、鳳凰は。

 拝殿の中に在るのは、祭壇と「鍾海」。
 魅耶には皆まで説明されなくても、それが何を意味しているのかくらいは判る。

 しかし、一体「誰」の意思で。

 鳳凰は一度目を伏せ溜め息を零して、体の向きを変えた。
 いつまでも入れない拝殿の出入り口で、恨めしそうに突っ立っているわけにもいかなかった。

 現在、華倉と麒麟が擬似空間で稽古を続けている。
 ほぼ毎日のように総本山に通い、疑似空間を作り出しては、華倉と麒麟がそこへ入って行くのを見届ける。

 鳳凰は外から監督する必要があるため、一緒に入って行くわけにはいかない。
 万一空間内で不測の事態が起こった場合、鳳凰は外からその事態を収束させる義務がある。

『闘える者が闘えば良いのです。鳳凰様には別の役目がありますので』

 麒麟はそう諭して、白沢捕獲の実行役を担った。
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