気掛かり
華倉が訪ねたとき、広政は外出していた。
頼まれた書籍がようやく購入出来たので、外回りのついでに実家に寄ったのだった。
今日来ることは前以て伝えてあったが、はっきりとした時間までは分からなかったため、仕方のないことではあった。
「でももうすぐ帰ってくると思う。それはお前が直接渡してやってくれ」
何やら作業中の菱人は、華倉からの説明を受けた後そう答えてくれた。
それは構わないけど、と華倉は頷く。
菱人に任せて帰ってしまおうかとも考えていた華倉だが、ふと自分が今持っている書籍の内容を思い出すと、じゃあ待たせてもらうね、とごく自然に続けた。
広政は所謂「異界のもの」に対する興味を抱いている。
毎週のように図書館に通っているそうなのだが、容子に聞いたところによると、その殆どが妖怪や地獄等といった内容だという。
菱人は広政のその趣味を好ましく思っていない。
家柄としても、菱人の立場としても、それは当然の感情だということは華倉にも充分理解出来る。
その一方で、広政が自分から熱中している趣味に対し邪魔だけはしたくない思いもある。
菱人も今のところ目立った禁止などは設けていないようだが、今日華倉が持ってきた書籍の内容がその類いとあっては迂闊に預けられない。
(しかも結構内容へヴィーなやつ……)
出版年が古く、広政に頼まれるようなことがなければ華倉はきっと存在すら知らなかっただろう書籍である。
幸い魅耶が出版社で情報を得て、そのツテで取り寄せてくれた。
(中学も2年生にもなるとこんなん読むようになるのか)
届いたとき少しだけ中身を見てみたが、パッと見だけでは何が書かれているのか分からなかった。
確かにこんな文字がぎっしり印字された分厚い本を難なく読めるような広政にとって、図書館は夢の国なんだろう。
今日もそんな図書館に出向いている広政の帰りを、華倉は兄の書斎で待っていた。
「……学校は行ってるんだ?」
小学生の頃、広政は一時期不登校だった。