想定外
道教という言葉を知ったのは恐らく半年ほど前のことだろうと推測する。
妖怪や世界のモンスターなどについての本を数多く読んでいるうち、偶然出くわしたことが切っ掛けだった。
その時はさほど気にも留めずにいた。
宗教という「思想」にはまだ関心が向かなかった。
けれど3ヶ月ほど前から、気が向いたのか少しずつ調べるようになった。
道教についての専門書は、自力で探すのはとても困難だった。
図書館を覗いても蔵書数が殆ど見られない。
その様子は一般書店でも同様だった。
ネット検索も試みたが思うような結果は得られずにいる。
加えて、家族共有のパソコンのため履歴が残ることもネックであった。
一番の頼りになったのは、離れて暮らしている叔父だった。
広政はその叔父が暮らしている「総本山」にも興味を抱いていた。
自分の家系にはどうやら、自分の好きな「妖怪」に関する何かがあるようだ。
広政はそのことをちゃんと把握している。
けれどそのことを口にして一度、父親にこっぴどく叱られてからは、無暗に話さないようにしていた。
叔父が暮らしている「総本山」にはまだ数えるほどしか訪れたことがない。
あそこには絶対に「何か」がある。
広政の目標は目下のところ、その「何か」をこの目でしかと確認することだ。
そんな状態だった広政にとって、図書館でのその出会いは奇跡だった。
妖怪やら呪術やら、何やら胡散臭く妖しいジャンルの本を嗜むという偶然の出会いは奇跡と呼んで差し支えないだろう。
妖しい単語ばかりが頻出する広政の取り留めのない話にも、口を挟むこともなく耳を傾けてくれる。
「広政くん、読むの早いのねぇ」
その日は2週間振りに会うことが出来た。
いつものように図書館の外のベンチを陣取り、広政は「図書館のお姉さん」とあれこれと会話を楽しんでいた。
お姉さんから借りた本はまだ途中までしか読めていない。
お姉さんが言っていた通り、内容は今まで読んでみたどの本よりも詳しく、学術的用語も多く、なかなかに読み進めることが難しかったのだ。
それでも今まで望んでも得られなかったような知識や解釈たちが溢れ返るほど書かれていることが分かる。
いくら難しくても、量が膨大だろうと、これはじっくり読むべきだと広政は感じていた。
ようやく半分くらいです、との広政に、お姉さんが返したのが先ほどの言葉だった。