将来的なこと


 呼び出されて、指定された住所に着いた俺を出迎えたのは、珍しくスーツ姿の暢洋さんだった。
 何やらデスクワークの最中らしい。

 ドアの前で突っ立ったままの俺に、暢洋さんは一旦顔を上げて指示する。

「テーブルのカップ片付けてくれる? それが終わったらここの書類の処分ね」

 はい、と返事はしたものの、いまいち状況が理解出来ない。
 それというのも。

 流しは奥のドア、と指を差す暢洋さんへ向ける俺の視線に気付いたらしい。
 暢洋さんは俺に向かって微かに首を傾げて見せ、すぐに「あー」と閃いたような声を出した。

「また抱かれるかと思ってた? でも今日は違うよー」
「え、あっ、」

 図星ではあった。
 済みません、と慌てて頭を下げる俺に、暢洋さんは軽く笑って「しょんないよねぇ」と言った。

「僕が姿見せるときって大体そういう時だったもんね。ごめんね」

 なんて、予想外の言葉。
 それが本当に意外過ぎて、えっ、などと突飛な声を上げてしまった。

 何で謝る流れに?

 そもそも勘違いして身構えてた俺のせいなのに、と俺は口下手ながらも返したんだけど、暢洋さんは意に介さず受け流す。

 取り敢えず先程指示されたように、まずはテーブルの上のカップを片付けることに。
 どうやら人と会っていたらしい。

 でもそういや、暢洋さんの仕事って。
 洗い終えたカップの水気を拭き取り、戸棚に戻し終えて思う。

 確かこの人の仕事は……「黒幕」だ。

 勿論それは正式名称ではない。
 俺がこの人に拾われたとき、暢洋さんから直に言われた表現だ。
 黒幕、というか、暗躍っていうのか。

 暢洋さんのいる部屋に戻ると、次これねー、と暢洋さんに手招きされた。
 暢洋さんの作業している広々としたデスクの傍ら。
 その半分くらいの広さのテーブルが置かれている。

「これは?」

 束になった書類と、パソコンと幾つかの記憶媒体、それに領収証……?
1/4ページ
スキ