プロローグ
死に場所を探していた。
死に方も分からないまま。
自分の居場所なんか初めからなかった。
ただそれに気付けるようになったのが最近だった。
手遅れとは言えない。
だから今こうして、探している。
身分証の類は全て置いて来た。
誰に見付かるかも分からない。
逃げたとバレたらすぐ捕まるかも知れない。
だから遠くへ。
知らない道だけを繰り返し選び続けて、知らない場所を目指す。
そうして死に場所となるところを、決める。
細い裏路地。
今までそれでも避けてきたような裏の空間。
何があるか分からない、実家にいたときと同じくらいの痛みがあるかも知れない。
でももう構わない。
今死を目前に彷徨う自分には大差ないことだと。
密集する建物。
散乱する廃棄物。
何故こんなものが落ちているのか分からないような道端。
幸か不幸か、他の人影は見られない。
5階以上あるビルを探す。
大体が3階建て、あっても4階建てが大半だった。
ようやく見付けた5階建ては、日陰にあるせいか古ぼけて見えた。
けれど外壁はヒビもなくシャッターも綺麗なので築浅だろうと分かる。
出入り口らしいドアは建物の左側にあった。
シャッターには勿論鍵が掛かっていたが、こちらなら。
そんな淡い期待を抱いてドアノブを回す。
こんな場所でも、いや、こんな場所のためかやはり施錠されていた。
しかし諦められなくて、何度も何度も力任せに回した。
ドアを押したり引いたりしながら、壊し兼ねないくらい乱暴にノブを回す。
それでもドアは開いてくれない。
それに気付くと急に虚しくなり、ドアノブから手を離して座り込む。
空腹感を思い出した。
昨夜から何も食べていないのだ。
もう死ぬからと夜通し歩き続けて、自分を騙していたけれど、身体の方は待ってくれない。
腹が減ったと口から勝手に零れた。
家にはそもそも碌に食べ物も置かれてなかった。
無論現金など尚更だ。
最後に食べたのはいつで、何だっただろうか。
それすらも曖昧で、次第に視界が狭まっていく。
このまま寝たら死ねるだろうか。
またもうっすらと希望を抱いた。