バランス


「階段と……水回りの掃除は終わりました」
「うん」
「それで、ボディーソープと洗面所の石鹸が切れそうなので、買い出しお願いします」
「分かった」

 舜さんはそう、俺を見ずに返事をする。
 いつも通りだ。

 そう……全く「いつも通り」。
 俺ばっかり身構えている気がする。

 自分からあの話を切り出すのもどうかと思って、俺もいつも通り振る舞うことにしているものの。
 正直、舜さんから何かこう、アプローチがあるんじゃないか、と期待していたのも事実だ。

 でもそんな素振りは全くない。

 もしかして、あれは俺だけが見た幻想だったのだろうか。
 暢洋さんからも特に舜さんがギャラリーにいたことについて言及もなかったし、俺は動揺し続けていたので確認も出来ず。

 あれからそろそろ1週間くらい経とうとしている。
 何か……俺ももう忘れちゃっていいんだろうか。

 何やらパソコンに向かって作業する手を止めない舜さんの方をゆっくり確認して、無理だろ、と即座に自分ツッコミ。

『また近いうちに来るからねー』

 って、暢洋さんは帰り際に、そう言い残した。
 にっこり笑って、俺の頭を撫でながら。

「……ん」

 悪い気はしない。
 むしろ滅茶苦茶嬉しい。

 だから困っている。

 だって暢洋さんは。

「さっきから視線がうるさい」

 急に、俺の意識の中へ、舜さんの声が割って入ってきた。

 はっとして気付くと、舜さんが訝しげな顔付きで俺を捉えている。
 あっ、と動揺して、何かうまいこと誤魔化そうとしたんだけど、そんな器用に言葉を紡ぐなんて芸当は出来るはずもなく、あっ、えと、その、と盛大にどもった。
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