Kissして、


 今日はお前からして、って言われて。

 自分の膝に乗せておきながら、にーちゃんはそんな意地悪を言う。
 ただでさえ、ここに乗るだけでも恥ずかしいのに、俺から、キスしてみろだなんて。

 にーちゃんはほんとに、俺に意地悪するのが好きだ。

「恥ずかしいからやだ」

 控えめに掴んだにーちゃんの肩から、ばれないように手を離そうとした。
 でも、にーちゃんはそんな俺の考えなんか、とっくにお見通しなわけで。

 こら、といつものちょっと冷たい笑みを浮かべて、俺の手を掴む。
 どきりとする俺に、ふっと顔を近付けて続ける。

「出来ないんなら尚更。俺もされたい時あるんだから」

 くすぐったい。

 にーちゃんはこうやって、俺の好きな気持ちをうまくくすぐって、俺をその気にさせてくれる。
 俺だって、にーちゃんのこと好きだから、キスくらいは自分からしたいとも思ってた。

 でもまだ俺はガキだから、うまくタイミングとか掴めなくて、にーちゃんみたくスマートに振る舞えもしない。
 そう、下手に無理してぎこちないとこなんか見られたくないから、見栄張って。

「......俺へたくそだよ?」

 にーちゃんがしてくれるみたいに、にーちゃんのこと気持ちよくさせてあげられないよ、って、まだまだゴネてみた。
 でもにーちゃんは、いいよ、って返す。

「お前が勇気出すとこが見たいんだよ」

 にーちゃんはそう言って、俺の腰に両手を添えた。
 ここまで、お膳立てされたら、やらないわけにはいかないよな。

 自分からにーちゃんの顔に近付く。
 やばい、何これ、すげぇ緊張する。

 呼吸は荒く、激しくなるのが分かるし、にーちゃんの肩を掴む手に、無意味に力が入ってしまう。

 どうしよう、どこ、見てれば、いいの。

 緊張と、混乱と、焦りと、何だか心の中が忙しすぎて。
 このまま止まっているのもつらくて、俺はぎゅっと目を瞑ると、えいっと心の中で弾みを付けて、自分の顔を前に出した。
 何とかうまく、にーちゃんの唇に、触れることが出来た。

 最初はそう感じたんだけど、ちょっと顔を離したところで、本当に出来てたかな、って不安になった。
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