夏の真ん中


 逃げてるの気付かれたなこれ。

 息が上がるくらいの激しさになって暫く。
 何とか今まで舌を絡め取られないように逃げてたんだけど、先刻から和弘かずひろの動きも変わってきた。

 駄目か……逃げ切れると思ったんだが。
 とか諦めを抱くわりにはまだ抵抗を続けていた。
 出来れば触れてほしくないからだ。

 しかし、相手は慣れに慣れまくった色男。
 付き合ってもう5年以上経つとは言え、俺が勝てる相手じゃない。

「ん、」

 和弘がちょっと前のめりになって俺に体重を掛けて来る。
 その勢いに気を取られた隙を突かれて、舌先も捕まった。

 その箇所に和弘の舌先が絡んで来ると、普段よりも敏感に反応してしまった。
 まぁ、あの、痛みの方なんだが。

 和弘も俺の反応はしっかり見ているので、執拗に同じ箇所を責めて来る。
 集中していじられ続けるのは……無理。

「ん……まっ、んん……ねぇ」

 何とか合間に口を開いて言葉で抗議する。
 しかし和弘はすぐには止めてくれず更に俺の身体に乗っかって、しまいには押し倒して来た。

 食んでみたり、吸ってみたり、それから口内炎への刺激も加えて。

「っ……だから、ちょいやめ、って!!」

 さすがに気持ちよさよりも痛みが勝ってきて、俺は両手で和弘を押し返した。
 和弘の顎を突き上げるかたちになったので、和弘からは、ゎう、と変な声が漏れてた。

 好き勝手乱された呼吸を整えながら、話聞け、と睨み上げる。
 和弘は俺の手を顎から退けて笑いつつ、ごめんと謝ってくれた。

「意外といい反応するからつい」
「否定はしないが……何度もやられると結構痛いんだわ」

 そう、最初の何回かは悪くはなかった。
 痛いのが変に気持ちいい、みたいな、絶妙な刺激。

 キスしていたことには変わりないし、判断が鈍っていたのかも知れない。

 でも、あんなにしつこくいじられたら駄目だ。
 さすがに無視出来ない痛みになっていった。

 ごめん、と再度謝って、和弘は俺の身体に密着する。
 首筋に鼻を擦り付けて。

 あったかいなこいつ、などと、この真夏のクソ暑い中そんな感情を抱く。
 俺も和弘の肩に腕を回したとほぼ同時、和弘が顔を上げる。

咲加さきか口内炎ってことは、胃腸荒れてんの?」

 俺の顔を覗き込んで和弘が訊く。

 口内炎の原因がそれってのはよく聞くけど、俺自身はいまいちピンと来てない。
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