約束したからな【後】


 取り敢えず人気のない階段まで来て、一旦凹んだ。

 ほんとに人気あるなぁ、真平は。

 一番じゃなくても構わないって女子の多さにもビビるけど。
 どういう神経してんの、ああいう奴って。

 なんて、取り敢えず心の中で毒吐いておかないと、気が済まなかった。

 今の俺、険しい顔付きなんだろうなぁ。

 時計を見る。
 そろそろ授業が始まりそうだ。

 ……顔を上げて、すぐには動かない。


(来ないか)


 何と無く、そんな期待が顔を出していた。



***


 しかし、あろうことか、次の授業に、真平の姿はなく。
 俺は教科書を握り締めながら、殺気を放っていた。

 何で居ねぇんだよ意味分かんねェし、何処行ったんだよお前、あァ?

 なんて思考が頭の中で無限ループである。
 真平が授業をサボること自体は珍しくも何ともなく、教師もさほど気に留めていない。

 それが逆に不安だし、気に障る。
 あー、腹立つ。

 とか何とかしてる間に授業は終わり、俺はひとり机に突っ伏して後悔の嵐。
 自業自得かね、これは。

 祥吾からの慰めの言葉もあまり響かず、俺の心は徐々にしぼんで行く。
 くっそう……どうすりゃいいんだ。

 なんて自己嫌悪に陥っている俺の制服のポケットが、不意に震えた。
 メールかね、と呟きながらスマホを取り出す。

 ……真平だ。

「え?」
「どしたの?」

 思わず出た俺の声に、祥吾が反応する。
 俺は真平からのメール文章を、かいつまんで祥吾に説明した。

「気分悪くして早退したって、真平」

 あらま、と祥吾も驚いている。
 俺も吃驚したけど、同時に気まずく思った。

 もしかして、ストレスだったんじゃないか、と。
 断り慣れてない真平に、今日ずっとあんなことさせたから。

 真平、本当に気分悪くしちゃったんじゃないかと。
 緊張感とか違和感とかで、ここにいられないほどに。

「……やっちゃったかな」

 スマホを握り締めながら、うう、と俺は凹む。
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