約束したからな【前】
腕を組み、椅子に腰掛けた俺は、黙ってそいつを見下ろしていた。
床に直に正座させられて、小さくなっているそいつ。
いや、俺だってこんな真似は出来ればしたくない。
けれど、こうでもしないとこいつは反省しないというか……まぁ要するに、俺の気が収まらないのだ。
俺は組んで上にある右脚の爪先で、項垂れている真平(まひら)の頭を掠めるように小突く。
「で、何であんなことしたの」
俺の問い掛けに、真平がゆ~っくり顔を上げる。
でも視線は定まらず、あっちこっちに泳ぎまくっていた。
……嘘でもいいから何か言えよ。
「真平、いい加減俺も付き合い切れないよ」
脚組みを外し、俺はずいと上半身を真平の顔へ近付ける。
真平は、うう、と泣き出しそうな表情で唸った。
いや、泣いていいなら俺だって泣くわ。
「ごめんなさい咲加(さきか)」
真平はそう、観念したように、床に手を付いて頭を下げた。
……まぁ、真平の体勢からして、土下座になるのは仕方ないんだけど。
そこまでやられると、俺も居心地が悪い。
「うん、まぁ、何て言うか……」
許したい気持ちはある、でも、一向に改善しない様子が続いている事実と照らし合わせると、制裁が必要な気にもなる。
俺の恋人である真平は、いわゆる遊び人だ。
でも何て言うか、本人曰く、それは体質のせいで……。
って、俺が言うと公認するみたいで嫌だけど、要するに元気あり過ぎて、相手がひとりじゃ物足りないんだそうだ。
真平本人も女の子ウケする奴ということもあって、俺と付き合う前は、すっげぇ色んな噂が流れていた。
それから、何だかんだ俺と付き合うことになって。
確かに真平の体力は凄かったけど……でも、さぁ。
「俺がいるじゃん。何で他の子と遊べるかな」
俺はそう、問題点をはっきりさせて、改めて真平に問い質した。
真平は手を付いたまま顔を上げ、俺を見上げている。
その表情は……不思議そうだった。
何で、が、理解出来ていないようだ。
「お互い合意だし……何も問題はないじゃん?」
「いやいやいや、俺は? 俺の立場は?」
きょとん、と首を傾げて答える真平。
それが至極平然としていたので、うっかり俺の方が可笑しいのかと一瞬錯覚するほど。
でも、そうじゃないだろ。
そういう括りの話をしてんじゃないだろ。