反則技


「魅耶、最近瀧崎に付きっ切りだよね」

 昼休みだというのに、作業の手を休めない魅耶を見ていて、俺はそう呟く。

 何をまとめているのか知らないけど、色々印字されてる紙に向き合って、ちょこちょこ直してる。
 魅耶は視線は動かさなかったものの、そうですね、と俺の声に対し、反応する。

「3年生の任期も僅かですので。出来る限り叩き込んでおこうかと」

 ということらしい。

 瀧崎自身も「軍隊かよ」とか漏らしてたけど、俺の目から見ても確かにハードな様子。
 ……俺が言っていいのか分からないけど、そこまでやんなくてもいいんじゃないか。

 以前、というか今年度の初め頃かな、一回既に伝えてみたはみたんだけど。
 ……瀧崎だけじゃなく、勿論希咲にも引き継ぎという名の叩き込みは行われているせいか、このくらいが丁度いいんだとか何とか。

 魅耶と希咲の性質が合ってしまったらしい。
 瀧崎が頭抱えてた(あんな瀧崎初めて見た)。

 そんなわけで。

 俺たち3年生の任期もあと数週間と迫った夏休み前。
 正直、俺や長田の仕事っていうのは、もう殆どなかったりする。

 大体のものは瀧崎たちに引き継ぎが済んだし、俺たちがまだ生徒会に来るのはそのフォローのためと言ったところ。
 今一番仕事をしているのが、魅耶というわけだ。

 魅耶は自分の仕事もあるのに、瀧崎たちへの引き継ぎ作業をほぼひとりで行っている。

 長田も「手伝うのにー」と言ってくれてるんだけど、そこは魅耶、「折角なので部活を頑張ってください」とのこと。
 俺もその気持ち分かるけど、長田のことだから、多分気になっちゃうんだろうな……。

 魅耶が少しだけでも、俺にも作業振ってくれたら、俺から長田に頼めたりもするんだけど。

 魅耶は本当に俺にも作業を寄越さない。

「……でも、やっぱり魅耶抱え込み過ぎじゃない?」
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