妬心
「魅耶ー、生徒会行くよー」
いつものように、魅耶にそう声を掛けた。
魅耶は顔を上げて、はーい、と笑顔で応える。
けれど、そんな俺を見ていた魅耶の目が、不意に俺以外の何かに移った。
あっ、と声を上げ、もう一度俺を見ると、一言断りを入れた。
「ちょっとだけ時間下さい」
魅耶からのそんな頼みに、俺は「おう」と短く返事。
返答、というか、半分は驚きの反応だった。
魅耶は掃除から戻って来たらしい榎本を見付け、何やら話を始めていた。
……そう言えば。
「逢坂って浅海とは普通に喋るよな」
そんな、まんま俺の心の声が、坂下の口から出て来ていた。
俺は坂下の方を振り向いて、それ、と頷く。
魅耶は意外にも榎本と仲がいい。
多分、俺を除いて考えれば、一番仲がいい相手、だと思う。
「不思議っちゃあ不思議なんだよな。あのツーショット」
坂下が眉を顰めてそう呟く。
確かに、違和感、とまではいかないけれど、予想外、であることには間違いなかった。
魅耶も榎本も、お互いの性格からか、あまり笑顔とかが多い方ではない。
ああやって喋っていても、表情は至って大人しい、っていうか変化しない。
でも見てるとよく分かる。
魅耶、楽しそうだなー、って。
「榎本って魅耶には警戒してないよね」
俺には敵意剥き出しな相手なので、俺も自然と身構えてしまっているせいで気付かなかったけど。
榎本は魅耶に対しては、あまり壁を作っていない、と最近思えた。
今更な話だけど。
けれど坂下にとっても意外なことらしく、そうなんだよ、と頷いている。
「華倉のことでもうちょい対立するんじゃねぇかなって最初は思ってたんだよ俺も。だからそんな素振り全然なくて拍子抜けしたわ」
仲がいいに越したことはないけど、と坂下は笑う。
まぁ、うん、それは言えてる。
でも、何だろうなぁ……。
「華倉さん、お待たせしました」
オッケーです、と魅耶が戻ってくる。
俺は頷いて魅耶を出迎えると、カバンを持って教室を後にする。
じゃなー、と手を振る坂下に、返事をしながら。
「何話してたんですか? 坂下くんと」
階段に差し掛かった時、ふと魅耶がそう訊ねて来る。
えっ、と小さく驚く俺。
そんな質問までされるとは考えていなかった。
自分だって他人と喋ってたのに、よく把握してるな……。
別に普通の話、と簡単に答える。
けれど、魅耶は何やら探りを入れるような目付き。
何を怪しんでるんだ。
と、思い付く。
「じゃあ逆に、魅耶は? 榎本と何の話してたの?」
「え?」
本当に気になっていた、ということもあったし、たまにはやり返してみようと、俺はそう訊き返した。
魅耶が予想外と言わんばかりにきょとんしている。
けれど、いえ特には、と俺と似たような返答。
何それ。
「ほんと? 楽しそうに喋ってたけど?」
じっと魅耶の顔を覗き込んで、ちょっと食い下がってみた。
魅耶は頷いて見せたけれど、ちょっと戸惑っているようにも見えた。
「……そんなに気になりますか?」
教えてくれるつもりがあるのだろうか、俺に、そう確認を取るかのように訊いてくる。
そんなに、って。
そう念を押されると、返答に困るな。
別に、魅耶が俺以外の誰と仲良くしていようが、それは魅耶の自由だし。
そこを俺が詮索出来る権利なんか……。