諸刃の君
クラスメイトには。
「ねぇねぇ篠宮、この問題なんだけど、これ何でこうなんの?」
「あー、それ不定詞だから」
「不定詞って何?」
「……えーとねー」
以下、丁寧に且つ分かりやすい説明をしてあげる。
こんな調子で親切なのはまだ分かる。
同じように、大量のゴミ袋を抱えて歩いている1年生に対しては。
「歩きづらそうだね。ちょっと持つよ」
「ぅぉっ!!? 会長さんだ!! いいんですか!?」
「いいよー。高校生活どう? 慣れた?」
みたいに何の躊躇いもなく話し掛けている。
うー、これは……うん……先輩として、と考えれば……素晴らしい振る舞いだとは思う。
しかし果てには。
「あ、傘ないの? 良かったらこれ使って」
「えっ!! そ、そんな悪いです!! 逆に篠宮先輩どうするんですか!!」
「大丈夫~、折り畳みもあるし。入れてくれる人いるし」
……って。
急に降って来た雨で足止めを食った2年生にまで、これ。
全方面に対し、完璧過ぎるんだ。
それが、気に入らない、というか……。
「面白くない」のは、事実だ。
「華倉さん、優しさを振り撒き過ぎです」
深く息を吐き出しながら、僕はそう、不機嫌さを醸し出しながら呟く。
僕に背を向けた体勢で作業をしていた華倉さんが、その声に振り向く。
何が、と本当に分かっていない様子で答える華倉さん。
そんな華倉さんを見ると、あの親切心には一切の計算がないのだということが分かる。
そしてそれは、意識の外にある行動力だということも。
ケチの付けようがないことは明白だった。
だけど、このモヤモヤをひとりで抱えておくのは癪だった。
「華倉さん、誰に対しても一様に優しく接するし、どこ行っても馴染むし、皆華倉さんのこと大好きになってるので……素晴らしいことだなぁーって思いましてぇー」
「あー……それで機嫌悪いのね」
僕の表情を見て、華倉さんがそう判断する。
「でもやっぱり、困ってる人は助けたいし、数分で片付く話だったら素知らぬ振りするのも気分悪いじゃん?」
はは、と笑って、華倉さんはそう続ける。
それは、分かってます。
あなたはそういう人だから。
それでも。
「その天然タラシは性質が悪いですね」
「えぇ?」